第一章
[2]次話
チンパンジーの幸せ
霊長類学者のヤン=ファン=ホーク五十代で白髪の頭に眼鏡をかけた灰色の目で長身痩躯の彼はかつて勤めていたオランダアーネム市のロイヤルバーガーズ動物園のチンパンジーのコロニーに来ていた。
そこでだ、彼は今のスタッフに言われた。
「もう五十九歳で」
「それで、ですね」
「チンパンジーの平均寿命は五十歳ですから」
「大往生ですね」
「ですが最期にお願いします」
スタッフはホークに切実な声で言った。
「彼女と会って下さい」
「ママとですね」
ホークはチンパンジーの名前を言った。
「そうしてですね」
「チンパンジーも心がありますから」
「はい、人間と同じです」
ホークも答えた、コロニーの中のチンパンジー達が休む場所に向かいながら。
「そのことは」
「心があります」
「命があるなら」
「ですから」
「私にですね」
「彼女と一番長くいて彼女が一番親しくしていた人ですから」
それ故にというのだ。
「宜しくお願いします」
「はい、私もあの娘には深い親しみを感じています」
ずっと一緒にいて親密に接してた、その為だ。
「ですから最期に」
「お会いして下さい」
「そうさせてもらいます」
こう話してだった。
ホークは懐かしいかつての職場の中を歩いてだった。
そうしてすっかり弱って動けなくなっている年老いた雌のチンパンジーのところに行った、チンパンジーは横たわり動かなくなっていたが。
「ママ、来たよ」
「ウキッ?」
「今までよく頑張ってね、生まれ変わってまた会おう」
「キキ・・・・・・」
ママは横たわったまま涙を流した、そして。
ホークの頭に手をやった、命が尽きようとしている中で嬉しそうに笑った。
ホークが来た一週間後にママは夜を去った、その顔はとても穏やかだったという。
ホークはママと会った後その時の仕事からカメルーンの野生動物保護団体で働く様になった、この時に。
一匹の雌のチンパンジーを見た、そのチンパンジーはまだ生後一年も経っていない様だった。
毛布を抱いて隅でじっとなって動かない、ホークはその彼女を見てわかった。
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