最終話 さよならをメロディーに乗せて
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べきことがあるの・・・
またそのとき砂浜で遊びましょう・・」
「しかしな、幸代・・
俺は、生徒への手紙にも書いたが・・・所詮、想い出とは消える存在だ
特に俺の場合、消し去りたい過去があるから・・
その暗闇の中には、もちろん光も存在するんだ・・
その光とは、君と幼い頃過ごした思い出だ・・
これらすべて消し去る覚悟は出来ているよ・・
そして、真っ白な状態で今度は、偶然に出会いたいものだ・・」
しかし、2人は結ばれなかった・・
北部九州大震災が起こり、唐津にいた賢治は行方不明になったのである。
玄海沖でマグニチュード9の大地震が起こり、巨大津波が海岸に迫ってきた。警報と同時に住人は避難したが、彼は、砂浜でただ一人残り海を見ながらこう言ったという。
「俺は、今まで、教育現場、闇の組織、この現代社会にまで逆らってきた・・
しかし、この自然の力にだけは逆らえないぜ・・
だから俺は、この宿命を受け入れるだけだ・・
俺は、今まで自然現象を探究することに生きてきた・・
だから、この自然現象によりこの大自然に還るのだ・・
そして、また別の時代に生まれる・・・
ただ、それの繰り返しだ・・・
迫りくるこの巨大津波よ・・
どうか俺の過去を流してくれ・・」
そして、その大波は賢治を呑み込んでいった・・
当時賢治のクラスの引き継ぎとして担任を希望した幸代は、生徒達に気ずかれぬよう笑顔で振る舞い続けた。無気力になるどころか、底知れぬ悲しみのエネルギーで鍵盤と向き合った。そして、一流のピアニストの最終審査に合格し、春から、デビューを控えていた。デビュー後は哀愁のピアニストとして、一躍有名となる。
卒業式の日、最後のHRでクラスにさよならを告げ、一人体育館に向かった。
鍵盤に向かい弾き始めた・・「悲愴 第二楽章」であった。
賢治・・これはあなたが真夜中に弾いていた曲よ・・・
あなたのクラスは幸せに卒業したわ・・・
私は今でも・・深い悲しみの底よ・・
この世界に、あなたは存在しない・・
たとえ、そうだとしても・・
この悲愴が何だか心地いいの・・・
なぜなら、それは・・
こんな悲愴も、メロデーで表現すれば美しいものになれるのよ・・
あなたがここで弾いたこの旋律・・
その余韻は、今でも私の中で時間を刻んでるの・・
これからも・・・
そう、永遠にね・・・
演奏を終え、静かに蓋を閉じゆっくりと深く一礼をした。
やがて、顔を上げ、立ちあがった。
この九州は大地震の被害で多くの人が苦しんでるわ・・
私は、そこにメロデーを届けに行くの・・
勘違いしないで・・
決して、あなたを探すためじゃないわ・・
それが私の使命なのよ・・・
だから私も、この街から出るわね・・
旅に出るのよ・・
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