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ユア・ブラッド・マイン―鬼と煉獄のカタストロフ―
episode16『泣いた赤鬼』
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、痛む体に鞭打って両腕を持ち上げた。

「へ、し、シン?」

「――ぁ」

 シンの両手が、ヒナミのほっぺを挟み込むみたいに添えられる。突然の事態に顔を赤くしてヒナミが硬直するが、当の本人はただただヒナミの瞳に視線を注ぎ続けていた。
 ヒナミの瞳には、見知らぬ影が映っていた。小さくてよくは見えなかったけれど、彼女の瞳越しに見知らぬ誰かがこちらを覗き込んでいたのだ。

「――もし、かして」

 やがてヒナミの頬から手を離したシンは、動かない両足を引きずって、屋根の下にまで流れ込んでできた水たまりに近付いていく。暫く呆然とその様子を眺めていたヒナミはようやくその意図を察すると、典厩へ「連れて行ってあげてくれませんか」と声を掛けた。

 典厩もまたその意図を察したのだろう、優し気に頷いた彼はシンの体を抱えると、水たまりのそばに彼を運び――

 シンは、その水たまり(かがみ)を覗き込んだ。

「――あ、ぁ」

 ボロボロの貌だった。
 そこかしこに細かい傷と火傷が出来て、こすれた血で口周りが汚れている。汗と雨と血で額に張り付いた前髪はぐしゃぐしゃで、とても見せられたものではなかった。
 目つきも年にしてはかなり悪い、一見睨んでいるようにも見えかねない焦げ茶色の瞳は、僅かに震えているようだった。

 ただでさえ凶悪な相貌をしているのが、いっぱいに付いた負傷跡でさらに悲惨だ。とても見れたものではない、けれど――。


 けれど、それだけだ。


「ひなみ」

「うん」

 そこに居たのは、傷だらけの子供だった。

 鬼でも、怪物でもない。

 ――ただの、人間の男の子だった。

「ぼくは、ひとだったんだ」

 ぽろぽろと、決壊するみたいに目尻から涙が零れ落ちる。
 ずっとそう言われてはいた、みんなそう言ってくれていた。シンだって生まれてずっとそうだったわけじゃない、分かっているつもりではいた。

 でも、心の奥でやっぱり怖かったのだ。

 自分は本当に化け物で、皆とは違う生き物なんじゃないか。皆と共に生きることなどできない、どうしようもない怪物なんじゃないか、と。

 そこにいた見知らぬ男の子は、シンと同じように泣いていた。ぐしゃぐしゃに泣いて、嗚咽を漏らしていた。

「ぼくは、ちゃんと、ひとだったんだ。ひなみ」

「うん――うん、そうだよ。シン」

 当たり前の事だ、当たり前の事なのだ。
 けれどシンの垣間見る世界が、こことは異なるもう一つの現実が、そうは思わせてはくれなかった。それほど、シンの抱える世界は強烈にシンの認知を曲げ、歪ませ、傷つけていたのだ。

「にんげんだった、にんげんだったんだよ、ひなみ……!」

「うん……うん……っ」

 ヒ
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