episode16『泣いた赤鬼』
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うと、顎でシンの隣を示すようなジェスチャーを取る。言われるがままに隣に視線を移すと、すぐに視界の半分ほどが真っ白に埋め尽くされた。
その時になって、ようやくヒナミがこちらへ寄りかかるように身を預けているのが分かった。脱力状態と疲労で全身の感覚が鈍くなっているのか、肩にもたれ掛かった彼女の感覚が無かったらしい。
全身にいくつもの傷と火傷こそ残ってはいるが、寝息と鼓動の感覚が確かに感じられる。紛れもなく生きている証が、彼女の無事をシンに示していた。
「智代ちゃんと君ら二人は正直かなりの重傷だけどね、まあ命に別状はない……勿論他の子たちも無事さ」
「……よか、った」
「ああ。君らが頑張ったおかげだよ」
穏やかな声音に釣られて安堵したのか、今更ながらに全身に負った怪我がズキズキと痛みを主張し始める。ドバドバに出ていたアドレナリンの効力が切れてきたのだろう、特に両足の激痛がひどい。
「あだ、だだ……」
「両脚、バッキバキに折れてるからね。鉄脈術だの魔鉄で補強だのしてたんだろうけど、相当な無茶したそうじゃないか」
思い出してみれば、馬鹿な事をしたと思う。無意識に魔鉄で補強していたとはいえ、聖憐の巨大な校舎の最上階から身一つで飛び降りたのだ。むしろバキバキに折れた、程度の怪我で済んでいるのが奇跡だろう。
脚に視線をやれば、心なしか形が歪になっているように見える。これは精神衛生上良くないな、と目線を逸らせば、視界の端で銀色の影がもぞもぞと動いた。
ん、ぅ、という僅かな身じろぎの声と共に、肩にもたれ掛かった感覚が離れていく。ゆっくりと辺りを見渡した彼女はやがてシンを見上げると、へにゃりと力なく笑った。
「あはは、シン、ぼろぼろだ」
「ヒナミがいうの?それ」
ヒナミの体もシンに負けず劣らずボロボロで、更に言ってしまえばそれはこの襲撃とは無関係に、シンとの契約によって発生したものだ。
かつてシンと契約を交わそうとしたした少女を襲った傷は、やはりヒナミにも及んだらしい。頬、腕、足、エトセトラ――そこかしこに出来た傷跡は見ていて痛々しいくらいで、口の端から零れた血は、彼女が言葉を紡ぐたびにぽとぽとと真っ白な服にシミを作った。
けれど、不思議とあの時のような胸を刺す痛みはなかった。
ほほ笑んだヒナミが、シンを顔を見上げる。シンもまた彼女の顔を見つめ返して――ふと、不思議な違和感に気が付いた。
綺麗に透き通った銀色の瞳は、辺りの風景を鮮やかに反射して映し出している。そこにどうにも見慣れないものが見えて、ぱちくりと目を瞬かせた。
「……シン?」
「どうした?坊っちゃん」
突然フリーズしたシンに、二人が疑問げに首をかしげる。けれどそんな様子に構うこともなく
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