episode16『泣いた赤鬼』
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は、まだ……ッ!!」
掴んだ手をそのまま引き寄せて、その騒がしい面に膝を容赦なく打ち込んだ。
頭蓋骨が割れて、顎が砕ける。騒ぎ立てていた口は歪にべこりと凹んで、顔面の体裁すら保ててはいなかった。
何もかも奪っておいて、何もかもを壊しておいて、『俺から奪うな』等と――。
――ふざけるな。
「お前の、全部を奪ってやる」
溢れ返る焔の海で、傷だらけの右腕を掲げた。
悍ましい腕だ。
恐ろしい腕だ。
血潮みたいに紅い外殻に包まれたその腕が、ぐっと拳を握り込む。辺り一帯を燃やし続けていた灼熱は吸い込まれるみたいに彼の右腕に集まって、やがて当たり一帯の炎全てがその拳を強く輝かせる。
全ての罰を。
全ての罪を。
全ての悪を。
逢魔シンの内に眠る煉獄は、それらを燃やし尽くす為だけに。
「おれ、の、せかいを」
「――お前の世界は、僕らの世界には必要ない」
振り下ろされる拳が。
天高くそびえ立った焔の大樹が。空を照らす輝きが。
――今、緩やかに、戦いの終わりを告げていた。
――――――――――――――
「――?」
いつの間にか、意識を失っていたらしかった。
遠くに救急車のサイレンの音が聞こえる。そこに次から次へと警察や消防の音も混じっていって、聴覚に届く情報量が騒がしくなってきた。
重い瞼をこじ開けて、辺りを何とか見渡す。
灼熱の気配は既にない、空から降り注いでいた雪はいつの間にやら雨へと変わっていて、赤熱していた周囲一帯は歪ながらもなんとか平熱へと戻りつつあるようだった。
半ば崩落しかけている教会の中庭には見覚えのない簡易テントが張られていて、きょうだい達はそこで雨風を凌いでいるようだった。奥の方には見切れているが、シスターの姿も確認できる。
「……おっと、案外早く起きちまったな」
「……白崎、さん?」
シンの顔を覗き込むように見ていたのは、無精髭を蓄えた気だるげな男だった。
白崎典厩。ヒナミの護衛を受け持っていた、戦乱の時代――第〇世代を生き抜いてきた、歴戦の製鉄師。本来であればヒナミを守る任に就いていた筈の男だった。
気まずそうに頬を掻いて目を逸らす姿に、思考がようやく回り出す。どうして肝心な時に護ってくれなかったのか、という怒り。あの製鉄師達は何なのか、という疑問。だがそれらの思考はすぐに消え去って、衝動のままの言葉が口から飛び出した。
「ヒナ、ミ、は」
「隣、見てごらん」
優しげな表情でほほ笑んだ典厩はそう短く言
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