episode16『泣いた赤鬼』
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ていく。炎の中心に佇むスルトルは呆然と消えゆく腕を見やって、やがて何かに感づいたように空を見上げた。
「来……て――いや、見て、いやがったのか……!すべて見ていて、ダンマリを……ッ!俺を、馬鹿にして……ッ、俺を、俺をッ、嗤っていやがったなァッ!!『嵐の王』ッ!!!!」
「ッ、あ、ァ――!!」
何が起きたのかは分からない、だが、これが決定的な隙である事だけは分かる。
踏み込みは一歩、加速は一瞬。肺に取り込んだ酸素に熱を灯して、深紅の外殻の内側を通し四肢へ、その先々へと炎を溜め込み、一息に弾けさせた。
火力を高めて推進力へ、ロケットのブースターみたく炎を収束させて、シンの体は熱線を残像の如く残しながらスルトルへと肉薄する。
無論、スルトルもただ茫然とはしていなかった。
即座に有詠唱によって膨れ上がらせたエネルギーを放出して、業火による灼熱の壁を形成する。既に周辺の魔鉄交じりのコンクリート舗装道路は完全に融解して、マグマの如くグツグツと煮えたぎっていた。
並の製鉄師では、近付くことさえ――否、生存することさえ困難な地獄。踏み込むことは死を意味する筈の、絶対領域。
けれど。
「ただの、炎だ」
逢魔シンは、意に介す事もなく進む。
煉獄の炎は延々と鬼を焼き続け、その雪げぬ罪を裁き続けてきた。逢魔シンという鬼はこれまでずっと、断罪の火にくべられ続けてきたのだ。
――ただ熱いだけの炎など、今更何を恐れるものか。
「――ッ!?」
「僕は、お前を許さない」
全身に真正面から炎を受けて、しかし深紅の怪物に一切の火傷はない。
紅蓮の輝きの中に、深紅の視線が紛れている。超高温の死地の中に在ってもその瞳の輝きに眩みはなく、恐怖すらそこにありはしない。
今や炎は、逢魔シンを害するモノではなくなった。
「僕らは、お前を許さない」
深紅の拳が、がら空きの腹部に再び突き刺さる。その余波はスルトルの体を抜けて、融解した大地を抉り、歪ませる。魔鉄の加護による保護がなければ、今頃スルトルの胴は対物ライフルで撃たれたみたいに真っ二つにはじけ飛んでいただろう。
内臓のいくつかが体内で破裂して潰れるような感覚だけが、拳から伝わってきた。
「神の許しも、神罰もいらない」
「ッ、が……ば、かな。馬鹿な、オレの炎が、世界が……ッ!!」
撃ち込んだ拳をそのまま開いて、吹き飛び始める前にスルトルの肉体を繋ぎとめる。衝撃に逆らって繋ぎ留められた肉体は歪に軋んで、炎の魔人の表情が苦悶に歪んだ。
「全部を奪われたヒナミの分も、シスターの受けた痛みの分も」
「やめろ、やめろ、奪うな、俺から、この世界の変革は、この地獄の救済
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