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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第60話 エル=ファシル星域会戦 その4
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の道ができた。

「ボロディン少佐。ジャワフから話は聞いた」
 ジャケットの上からでもわかる少将の太い左腕が、ギシギシと肘掛けに悲鳴を挙げさせている。ひ弱な宇宙軍士官など葦を刈り取るように吹っ飛ばせそうなエネルギーが、御年五五歳と聞く少将の体格から溢れている。
「どうやら骨のある敵がいるということだが、兵力配置・防備計画いずれを見ても素人そのものだ。その理由を貴官は説明できるか?」
 儀礼など面倒だというより、効率を重視する性格なのか。脳筋では少将は務まらないのはわかるが、意外にもせっかちな人なのかもしれない。爺様と異属同類な気配がするので、俺も殴られる前にさっさと応えることにした。
「上級指揮官と中級・下級指揮官では、指揮権限範囲が異なります」
「で?」
「エル=ファシルが攻略された際、住民は限られた動産のみ抱えて脱出いたしました。クレジット化された現金や持ち運びの容易な貴金属はともかく、社会インフラ・工業生産プラント・各種資源は残されたままです」
「屍肉漁りか?」
「エル=ファシル星域はイゼルローンから空間距離があり、将来的に恒久基地を建設する条件が整っていても同盟の勢力圏があまりにも近すぎます。望外の戦果に対し、将来戦略の準備が整っていなかった。そこにインフラがある程度と整っている都市があり、資源が残されているとしたらまずは回収を試みるでしょう」
「……で?」
「上級指揮官が貴族階級のそれもあまり軍事に関わってこなかった人間であることが想定されます。彼らの実戦指揮能力は職業軍人のそれよりも低い。前線である程度の規模の軍事組織を運用する為には、『助言顧問』か『考えて動く手足』が必要です」
「頭と体は別だと」
「……はい」

 少将の比喩表現にいささか問題があるとはいえ、理解はしてくれている返答だった。助言顧問の存在はカストロプ侯爵領侵攻時の双璧がそうだったし、帝国軍の至る所で中堅に平民や下級貴族出身の有能な職業軍人が、そうでない上官を支えていた。

 制宙権が失われ、大気圏内制空権も失われつつあるのに、降伏もせずかと言って積極的あるいは冒険的な攻勢を行わないのは、権限の範囲で最善を尽くそうとする表れとみていいだろう。もっとも帝国軍の増援が来るまで戦線を維持することしか、彼らには選択肢がないのだが。

「作戦司令部の意向としては、インフラ設備の破壊は極力少ない方が望ましいか?」

 しばらく沈黙してからの少将の発言は、周囲にいる陸戦幕僚達の意表を突いたようで、自然とその視線は俺に集中する。これが中性子ビームなら、俺は瞬時に宇宙の塵になるくらいに。だが司令部より民生引継ぎの情報収集も任務としている俺としては、なるべく破壊せずにいてもらえれば積算業務も、後々の復興経費も浮くのでありがたい話だ。

「もし可能であれ
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