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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第60話 エル=ファシル星域会戦 その4
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いる小型の三次元投影機を動かせということだろう。俺はその通り端末の上に惑星エル=ファシルのメルカトル図を浮かべると、ジャワフ少佐は、その三つの都市の色を赤く変える。

「理由はわかりませんが無人偵察によると、その三つの都市に戦力を分散配置しております。それぞれの都市にだいたい一個師団程度。あと、第二大陸の中核都市にも二個大隊程度」
「各個撃破が可能、ということですか?」
「この宇宙港のある中央都市に、絨毯爆撃を喰らわせた上で包囲網を形成。都市外縁に対地・対空・対地下センサーを張り巡らしたうえで、強力な電磁妨害を行います。後は空中騎兵と装甲戦闘車の二個大隊を張り付けて『試合終了』です」
「あまり都市機能を破壊するのは、民政復興において好ましくはないのですが、仰る通りですね」
「本来なら森とか深海とか、地形的に防御が容易で隠蔽しやすい環境に中核司令部を置きます。四ヶ月もあったのですから、普通なら地上測量により要衝を確認し、必要とされる防備基地を構築し、二重三重の連絡線を構築するべきなのですがそれが全くない。まるでピクニックに来たら山賊に襲われて、それぞれ別のコテージに立て籠ってる学生集団のようなものですよ」

 そう。それは艦隊戦が始まってからなんとなく感じていた違和感。命懸けの侵攻作戦でありながらも、どこか緊張感の欠ける戦場の雰囲気。敵の指揮官か、それとも敵の質か。味方に比してあまりにも劣る任務遂行能力。

「敵の指揮官は軍事の素人と考えてもいいかもしれない、と?」
「ボロディン少佐は宇宙戦闘がご専門でしょう。先の艦隊決戦を振り返っていかがです?」
「上級指揮官クラスは確かに問題があると思いましたね。だた……中級指揮官クラス、あるいはその下のレベルではさほど差がないと感じました」

 少なくとも艦隊決戦が始まった段階での、前衛艦隊の動きは戦理に則っていた。まともに消耗戦となればこちらも統一運動訓練の不足している臨時編成の艦隊だ。被害もこの程度では済まなかっただろう。簡単にそのあたりを説明すると、ジャワフ少佐の顔から暢気さが消え、右眉だけ僅かにスッと引き攣りあがった。左眉が連動しないあたり、この人も参謀特有の顔面操作法を覚えているのかもしれない。

「……傾聴に値するご意見ですな」
「陸戦と宇宙戦では、所属も常識も次元も異なりますが参考になりますか?」
「勿論です。ディディエ少将閣下に意見具申すべき内容ですよ」

 そういうとジャワフ少佐は、管制センターの最も忙しそうな一角にスタスタと近づき、何人かと話した後で俺に向かって手招きした。階級はともかく戦歴を考えれば彼の方が先任なので、俺はそれに応じて近づいていくとモーゼの海割れよろしく陸戦参謀達が左右に分かれ……布張りのコンバットチェアにどっかりと腰を下ろすディディエ少将まで
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