第60話 エル=ファシル星域会戦 その4
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ことに爺様達は驚きそして呆れたが、直属戦隊に所属する戦艦数隻から通信オペレーターを供出させ、一時的に通信管制大隊指揮下へ転属させることを約束してくれた。
その報告を俺は地上戦部隊司令部にすると、司令部の面々は「おぉ〜」と何故か感動してくれた。管制センターに残って戦艦のオペレーター達と機能復旧に努めることになる年配の大尉にこっそり理由を聞くと、「大抵の宇宙戦部隊司令部は管制センターそのものを奪いに来ますよ。なのに作戦期間中だけでも我々に預けてくれるんですから、ビュコック司令官は戦の道理というかご配慮ができる方とわかるんですよ」と教えてくれた。これが軍内セクション対立というのか、聞くだけで実に面倒な話だ。
一方で、モンティージャ中佐からも注文があり、自走端末を遠隔操作するので三時間ほどそこにいてほしいという話だった。詳しい内容は教えてくれなかったが、恐らくは自走端末を介して帝国側が残した管制センターの情報を抜き取ろうということだろう。管制センター内なら動き回っていいとのことなので、俺はお目付け役のジャワフ少佐と一緒に、行く当てもなくあちこちを見て回った。
「しかし、ヤン=ウェンリーという男は恐ろしいですな」
周囲に誰もいないことを確認したジャワフ少佐は、俺にそう小声で囁いた。俺が無言で視線を送って続きを促すと、太い唇がゆっくりと活動する。
「民間人三〇〇万人の脱出を成功させたことは勿論、陸戦部隊・治安警察・行政府の所属を超えて脱出の指揮を執ったことです。その力量は二二歳の中尉とは到底思えません」
「士官学校でもなかなかつかみどころのない後輩でしたよ」
おそらくはその三者の責任回避も含んだ宇宙戦部隊への脱出計画委託をヤンが一身に背負わされた結果と推測できるが、それを言うことなく当たり障りのないことを応えると、ジャワフ少佐も大きな肩を竦め、いつの間に見つけたのか、小さく折り畳まれた紙のメモを差し出した。俺がそれを開いて口に出して読んでみる。
「『もしこれを同盟人が見つけたら、ハイネセンポリスの家族の下に届けてほしい。ヤンとかいう軍の若造が、俺達を指揮してハイネンセンへ脱出させると言ってるが到底無理だ。帝国軍に囲まれ、リンチの野郎は俺達を見捨てて逃げた。軍は自分達のことしか考えない奴ばかり。俺は宇宙の塵になっているだろう。だから代わりに軍に向かって声を上げてくれ。家族のみんなを愛している。父さん、母さん、すまない。早いうちに戻ってジュリーと結婚するつもりだったが、かないそうにない。ジュリーによろしく伝えてくれ。エル=ファシル宇宙港管制センター 第二管制区次席オペレーター ヴィリアム=エルヴェスタム上級管制士』」
あ、これは見つかったら相当ヤバい『黒歴史』だと即座に判断し、俺は即座にジャケットの内ポケットにしまい込んだ
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