第一章 幽々子オブイエスタデイ
第2話 月の守護者と兆候:後編
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けていた玉兎達であったが、徐々に雪解けのように表情が和らいでいったのだ。
「近い未来に地上から現れる敵に備えて稽古することが、貴方たちの仕事です」
そう依姫が語りかける眼前では──すっかり玉兎達とレイセンが打ち解け合っている光景があった。
『レイセン』の名前を出したのは正解であったようだ。このお陰で彼女は、他の玉兎にいじめられる事もなく馴染めたのだから。
勿論彼女は彼女であり、『レイセン』ではない。だが、この場を穏便に進めるためには敢えてその役割を与えるのはうまいやり方と言えよう。
そして、これは依姫自身の密かな『我が儘』でもあるのだ。この娘が自分自身の道を見つけるまで自分の側でレイセンとして居てもらいたいという気持ちがあったのである。
「はいはい、静かに」
賑わう玉兎達に依姫が呼びかける。
「新しい仲間が入って士気が高まったところで、稽古を続けなさい」
「おー!」
玉兎達は一斉に手を上げて一致団結していた。
◇ ◇ ◇
豊姫は空に地球が映る海岸へと来て、物思いに耽っていた。
──静かの海。
月の都と正反対の場所に存在する、地上にもっとも近い海。
月の都が存在するのは月の裏側と呼ばれているが、この場合の表裏とは月の都の結界の内側か外側かという意味である。
結界の内側、つまり裏側の月は穢れのない海と豊かな都の美しい星であるが、外側、つまり表側は荒涼とした生命のない星である。
表側の静かの海には機械の残骸や人間の旗など、穢れた人間の夢の後が眠っているという。
「お姉様?」
豊姫の元に依姫が来て呼びかけた。
「また静かの海に来ていたのですね」
「ん? ああ、なんとなくね」
妹に話かけられて、豊姫はそう言った。
「八意様の手紙どおりならば、地上から敵が現れるのはまだ先の話です。なんとなく、海は懐かしいだけよ」
「それは……綿月の家系ですからね、でも。不確かな噂の飛び交う中、今信じられるのは八意様の手紙だけなのです」
風に帽子を飛ばされそうになるのを押さえながら、それを聞く豊姫。
「そのため私は兎たちに戦闘に備えて稽古をつけています。先の戦いで戦闘要員の兎たちも減ってしまいましたから、その分稽古も厳しくなっています」
そこに「サボってなければ」と依姫は付け加えた。
「でも、お姉様は……」
自分の姉の身を案じて、不安そうな表情を覗かせる依姫。しかし、豊姫の様子は落ち着いている。
「わかっているでしょう? 私は海と山を繋ぐ事ができる。貴方は神霊を呼ぶ事ができる」
そこで豊姫は目を細め、続ける。
「その能力を見越して、八意様は私たちが協力するのではなく──バラバラに動く事を強要しているの」
言い終わった豊姫は小石を摘んでぽいっと海面の円形に光る場所へと投げた。
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