第一章 幽々子オブイエスタデイ
第1話 月の守護者と兆候:前編
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『──月の都を侵略しようとしている輩がいるという噂を聞いた』
これが八意永琳から綿月姉妹へと渡された文書に記された記述であった。
◇ ◇ ◇
空に遠く浮かぶ月、その裏側には私達の知らない『月の都』が存在するのである。今まで決して地上の人間に悟られる事がなかったのはそこに結界が張られているからなのだ。
そんな月の都の道を息を上がらせながら掛ける存在があった。
人……ではない、頭には長い耳が生え、臀部には真ん丸でふわふわした尻尾が生えているのだから。
彼女は名も無き玉兎──月の兎である。最も、長い年月を過ごし妖怪化した存在であるから、二足歩行した人間とほとんど変わらぬ容姿をしている。前述の耳と尻尾の件を除けば。
彼女の容姿は水色の髪をショートヘアにし、体には黒くかしこまったような上着に、桃色のプリーツスカートを履いていた──まるで私達に馴染みのあるブレザーのようである。
辺りの風景はさながら中国の商店街のような様相である。そして、そこで談笑や店を営む者達は今駆けている者と同じく皆玉兎のようだ。
そんな場所を駆け抜けて──彼女は一際大きい屋敷の門の前へと近付いていった。
そして彼女は第一関門を抜けると、屋敷の敷地内部の第二の関門へとたどり着いていた。
「はっはっ……」
彼女が呼吸を整えながら見据える視線の先には、今度は鎧を着込んだがっちりとした体躯の男性が二人立ちふさがっている。
長い耳は存在しない。彼らは玉兎とは別の存在『月人』なのだ。
「……っ」
彼女は思わず息を飲んでいた。
◇ ◇ ◇
屋敷の中もやはりというべきか、中華風であった。そしてその様相はさながら中国の貴族が住むような立派なものである。
そんな中で腰を下ろしながら肘掛けに両肘を添えてくつろぐ女性がいた。
煌びやかな金髪の長髪を携え、目元はぱっちりとした可愛らしい垂れ目であり、大人びた体とのギャップが目を引く要素となっていた。
服装は白のカッターシャツに、左肩部分のみ存在する紫色のワンショルダーのワンピースという現代の日本の文化では余り見ないような一風変わったものである。
彼女にも長い耳はなく、月人である事を示していた。
「──桃李物言わざれども、下自らみちを成す」
そう言いながらその女性は丸窓から外に見える桃に目を向けていた。
「桃や李はおいしい実を付けるので、何を言わなくても人が集まってくる」
そして女性は「ん」と力みながら丸窓から手を延ばして木に生る桃を掴もうとしていたが、やや届かない位置にあった。
そこで彼女は閃いた。扇子を使えば距離を稼げるのではないかと。
そしてそれを行動に移す──が残念、それでも届きはしなかった。
「あと少し……、あと少しでおいしい桃への道ができる
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