第一章 幽々子オブイエスタデイ
第1話 月の守護者と兆候:前編
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
依姫は兎に語りかけた。
「晴れて新しいペットになれたね。今日から貴方のことはレイセンと呼ぶわ。これは昔地上に逃げたペットの名前」
兎──ただいまを以て『レイセン』という名前を与えられた──を撫でながら優しく語りかける豊姫。
「貴方にはちょうどいいわね」
「はい」
豊姫に言われて、レイセンは笑顔で答えた。
その、かつてレイセンと呼ばれていた兎は今地上で鈴仙・優曇華院・イナバと名乗っている玉兎である。
彼女は依姫の元で訓練を受け、その中でも一際優秀な兵士だったのであるが、臆病な性格であった為に戦いが始まる前に地上へと逃げてしまったのだ。
◇ ◇ ◇
「あ〜あ、私たちは甘いなぁ」
「あら、八意様が手紙を託すくらいなんだから、罰を与えないでやってくれって言ってる気がしたけど」
お茶を飲みながらぼやく依姫に豊姫が答える。
「でもねぇ、これで玉兎を束ねるリーダーにまた目を付けられちゃうよ」
「何を今更。最近は月の都に不穏な空気が流れているからね、私たちの人手は多いに越した事はない」
懸念を口にする依姫に、豊姫が返す……桃を手に持ちながら。
「お姉様、お言葉ですが……」
「何?」
「桃 食べすぎじゃないですか?」
──やはり問題はそれだったようである。
「八意様もいないんだし、糖分取りすぎに気をつけないと……」
「新しいペットと一緒に稽古するから平気よ」
「……」
そんなやり取りを一通り行うと、二人は互いに微笑みあった。その事が示すように、この綿月姉妹の仲は非常に良好のようである。
──これが二人が普段通りのやり取りなのであった。
◇ ◇ ◇
そんなやり取りをすると、豊姫は八意から送られた封書の封を剥がしたのだ。
するとそこに閃光が走り、姉妹の頭上にエネルギー体が集まり渦を描いてかき消えた。
そしてそこに数字の『1』のマークが浮かび上がったのである。続いてそのマークは封書の裏に地面に舞い降りた粉雪のようにピタリと張り付いた。
「まだ誰も読んでないわね」
豊姫が言う。どうやらこれは封書が開けられた回数を計る、月独自の技術のようだ。
「それにしても八意様からの手紙なんて、もう千年以上見ていないわ」
そう、千年以上。その言葉は決して言い間違いではなく事実なのだ。
それが寿命から逃れて永遠の時を手にした月の民なのであった。
「いったいなんの用件なのかしら」
豊姫は畳まれていた手紙を広げ、依姫と共に読み始めようとする。
「月に戻ってくるって言うのなら、私は大歓迎ですけど……」
「私もよ」
心踊らせながら手紙を読み始める姉妹。
二人は今では八意抜きで立派に月の守護者を務めているのだが、やはり恩師と再び一緒に過ごしたいという気持ちは否定出来ないのだ。
しか
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ