第一章 幽々子オブイエスタデイ
第1話 月の守護者と兆候:前編
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わ」
そう言う彼女の扇子は震え、おぼつかないながらも桃へと届くぐらいまで差し迫っていた……が、桃は枝から落ちてしまった。そして唖然とする女性。
「しょうがない、桃は私に運動をしろと言っているのね」
そして、とうとう彼女は丸窓から外へと飛び出してしまったのだ。
◇ ◇ ◇
「だから、兎風情が綿月様になんの用事があるって言うんだ?」
右側の黒髪の門番が言いながら、得物を玉兎へと突きつけていた。それは刀身がエネルギーで構成されているという、現代人の認識では映画やアニメでしかお目に掛かれないものである。
「緊急の用事なのです。あるお方からの命令で……」
「だったら、その証拠を見せればいいじゃないか」
「……それは……その」
「それに、お前は誰に仕えている兎なんだ?」
そこに左側の茶髪の門番が聞いてきた。
(身元を明かすと、私が地上に逃げた事もばれてしまう。かといって八意様の封書は誰にも見せるなって言われているし……)
そう、この兎は地上へと逃げたのである。とある月の罪人の罪を代わりに償うべく薬をつく役職を続ける事に嫌気がさしてである。
そして逃げた先の地上の幻想郷と呼ばれる所に住む八意永琳という者に遭って言伝をもらい、封書を持って月へと戻ってきたのだ。
その永琳──これは本名が地上人には発音出来ない為に地上で名乗っている偽名である──は元々月の民であり、月の頭脳と呼ばれた技術者なのであるが、その事については後に記述する事にする。
(どうすれば)
行く道を閉ざされかけ、玉兎は路頭に迷っていた。
べしゃっ。そんな彼女の足下に何か、水気の含む物体が音を立てて落ちた。それを見て何事かと彼女は顔を上へと向けた……その時門の上から誰かが飛び出してきたのだ!
突然の事に度肝を抜かれる玉兎。だが時既に遅く──彼女はその者に踏みつけられてしまったのだった。
見ればその者は先程桃を採るために丸窓から飛び出した人であった。見事に桃を採る事に成功したようだ。両手一杯に大量の桃が抱かれている。先程玉兎の足下に落ちたものはそこから漏れた桃の一つだったようだ。
「あ あれ?」
「豊姫様!?」
それを見ていた門番が同時に口にした。
そう、彼女は月の守護者『海と山を繋ぐ月の姫』綿月豊姫その人だったのである。
「桃を拾いながら運動をしていたら、何やら表門が騒がしかったので見に来たの。で、何を揉めていたのかしら」
「いや、その。豊姫様の足下で寝ている兎が、どうしても豊姫様と依姫様に会いたいと」
豊姫の問いに、黒髪の門番は答える。そんな彼に豊姫は「はい、桃」と差し出していた。
「あや、そんなんで揉めてたの?」
そして茶髪の門番にも桃を差し出す。
今話に出てきた兎は……豊姫の下で声なくうずくまっていた。
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