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その日の夜、お兄ちゃんは8時過ぎに帰ってきて、お父さんと連れ立って、近所の料理旅館のお風呂に入りに行った。晩御飯は、ふたりで食べとけって言われて、お母さんとソーメンで済ましていた。岩風呂でサウナもあるとかで、お父さんは、独りでもたまに行く。お兄ちゃんとは、初めてだと思う。そういえば、藤沢のおじさんが来た時も、ここに泊っていた。
10時頃、ふたりは帰ってきて、少し飲んできたみたい。押し寿司と玉子の太巻きを買ってきたから、みんなで中庭で飲もうと、お父さんは上機嫌で、椅子を引っ張り出していた。穴子と椎茸を甘く煮て細かくしたものをご飯に混ぜてあって、上に鯛、海老、厚焼き玉子なんかを載せて押してある。私の小さい時からの好物だ。
「紳から聞いたぞ 純粋で真面目そうだし、なかなか好青年らしいじゃぁないか」と、私に言ってきた。
「お兄ちゃん 彼のことしゃべったの」
「いいじゃぁないか 悪いことじゃないし おやじも気になっているんだよ ふたりはラブラブだよな 店の娘もうらやましがっていたぞ」
「お母さんもうらやましいわぁ 絢は幸せ一杯って様子だし」
「でもな絢 よく聞いておけよ 酔っぱらって言うんじゃあないぞ 彼は、真面目だからか、物事をよーく考えて慎重に行動して、それでも間違いに気づいたら、修正しながら進むタイプだ だけど絢は、これと決めたら、何がなんでも乗り越えて突き進む もしかしたら、絢をそんな風に変えたのは、彼かも知れないな。絢には、それだけの実力があるのかもしれないが これからは、そうも行かないこともある それと、彼の方向性が絢の思うことと、違うという時もあると思う これから、彼とは食い違うことも出てくる 絢も基君を信じているのなら、その時は、絶対に彼について行け、離れるなよ」
「あーら 紳は短い間なのに、うちの人より よーく見ているわね」と、お母さんが言っていたけど、私は、お兄ちゃんが、こんなに私のこと考えていてくれたんだと「ありがとう」と思っていた。
「ワシの思っていることを全部、紳が言ってくれたな でもな、絢の生き方はワシに似ていて好きなんだぞ さすが我が娘だ 紳もアメリカでしゃべり方だけは勉強してきたみたいだな 人のことを決してけなさないで、うまいこと話しやがる お前こそ、そろそろ相手みつけろ もうワシ等だって孫がいてもおかしくないんだぞ」と、酔っぱらっている お父さん。
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