第二章
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「入れる度にです」
「石が泣くか」
「中から子供の泣き声がするのです」
「左様か、これはな」
吉保は石屋の話を聞いて言った。
「竹取物語か」
「あの話ですか」
藩士は吉保の話を聞いて吉保に問うた。
「平安の頃の」
「うむ、あの話の様であるな」
「ではこの石は」
「中に赤子がおるのか」
「あやかしではないでしょうか」
藩士はその可能性を述べた。
「そうであるのでは」
「異朝では人を食うあやかしは赤子の泣き声を出すという」
今度は清の話だった。
「それやも知れぬか」
「異朝ではそんな話があるのですか」
「うむ、ではあやかしが出ればな」
その時はとだ、吉保は述べた。
「わしがすぐにじゃ」
「成敗されますか」
「そして祟りもわしが受ける」
それが出て来たならというのだ。
「石にも言おう、若し祟るならわしにも祟れ」
「あの、よいのですか?」
石屋は表情を変えず淡々と話す吉保に怪訝な顔で尋ねた。
「若し祟りがあれば」
「よい、わしが言ったのだ」
石を割る様にとだ、吉保は石屋に答えた。
「だからな」
「宜しいですか」
「そなたが気に病むことは一切ない」
それこそというのだ。
「だからな」
「石を割ってよいですか」
「うむ」
そうだと言うのだった。
「それでよい」
「それでは」
石屋も頷いた、そうしてだった。
石に鏨を入れ続けた、すると。
そこから小さな、ようやく立てる様になったばかりの子供が出て来た、その子はというと。
「これは」
「娘ですね、しかも」
藩士は吉保に言った。
「姫です」
「うむ、着ている服はな」
吉保も藩士に答えた。
「そうだな」
「左様ですね」
「やはり竹取物語だったか」
吉保はその姫を見て言った。
「これは」
「そうでしたか」
「うむ、ではだ」
吉保はその姫を見つつさらに言った。
「この姫はわしが引き取るか」
「そうされますか」
「幼い娘子をそのままにしてはならぬ」
藩士に率直な声で述べた。
「だからな」
「そうされますか」
「奥にも話してな」
正室である彼女にというのだ。出来た妻であり吉保をよく支えている。
「わしの娘として育てるか」
「そうされますか」
「しかしあの姫の様にな」
吉保はその竹取物語のことをさらに話した。
「月に帰るのなら笑って送るか」
「そうされますか」
「そうしようか」
こう言うのだった、だが。
石屋がここで吉保に言った。
「あの、お侍様」
「どうした」
吉保はすぐに石屋に顔を向けて問うた。
「何かあったか」
「あの、姫がです」
石から出た娘がというのだ。
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