第一章
[2]次話
刃こぼれ
遠江の小夜の中山にある話である。
突如この地の寺で毎夜本尊である観音像が消える様になった、夜は消えるが朝にはしかとある。それで寺の住職も不思議がっていた。
「観音様は夜に何処に行かれておるのだ」
「不思議ですよね」
寺の若い僧も言った。
「一体」
「うむ、悪いことではないと思うが」
「御仏がされることなので」
「それはないと思うが」
しかしというのだ。
「気になるな」
「そうですね」
「毎夜な」
「何処に行かれているのか」
寺の方で不思議に思っているとだった。
寺の檀家である飴家の主人が寺で住職に話した。
「観音様のことも不思議ですか」
「そちらでも何かありますか」
「はい、毎晩店を閉めようかという時にお客さんが来る様になったのですが」
「そうなのですか」
「ですがそのお客さんが」
どうかという口調での言葉だった。
「妙なのです」
「といいますと」
「若い女の人ですが」
それでもというのだ。
「随分陰気で顔が青白く見たこともない」
「そんな人ですか」
「そうしたお客さんでして」
「毎晩ですか」
「来られて」
「見たこともない」
「そうした人が来る様になりました」
こう住職に話した。
「これが」
「それはまた不思議なお話ですね」
「そして観音様もですね」
「毎晩です」
「そうですか、一度です」
飴家は住職に話した。
「わしはそのお客さんの後をつけていって」
「何処の誰かですね」
「見ようと思います」
こう住職に話した。
「そうしてみます」
「では拙僧もです」
住職も飴家に話した。
「観音様の後をです」
「つけてですね」
「何処に行かれているか」
「確かめられますか」
「そうしてみます」
「それでは」
二人でこう話下、そして早速だった。
住職はその夜本尊がある本堂のすぐ傍で若い僧と共に観音像がそこから出るのを待った、すると鶏の刻にだった。
観音像が出た、住職はその刻を見て言った。
「これは飴家さんが店を閉める刻だ」
「同じですか」
「はて、一体どういうことか」
住職は首を傾げさせた。
「これは」
「飴家さんのお客さんと関係があるのでしょうか」
「そうかもな」
「左様ですね」
「ではそのことも確かめにな」
「後をつけましょう」
その観音像のというのだ。
こう話してそうしてだった。
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