第三章
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「ふと見て思いました」
「そうなのですね」
「拙僧も石にはあまり興味がないですが」
それでもというのだ。
「その石はです」
「目に入って」
「印象に残っています」
いい石と、というのだ。
「まことに」
「そうですか」
「はい」
こう主に話した、そしてだった。
想念は声のことを調べ続けた、湯舟に入りもして。だが数日経っても彼は声は聞こえず声の主のこともわからなかった。
それで彼も正直自分は見付けられないのではと思いはじめていた、だがそんな中においてふとだった。
想念はその黒く丸い石が風呂場の周りの岩の上にあるのを見た、それで彼は風呂を出てから主に問うた。
「あの石は誰かお湯から出しましたか?」
「前に言われていた石ですか」
「はい、そうしましたか」
「いえ、私共は本当にです」
主は想念のその問いに答えた。
「石については」
「興味がないので」
「ですから」
「動かしたりはですか」
「しません」
こう答えるのだった。
「お客様のどなたかでは」
「そうですか」
「はい、そうでは」
「左様ですか」
「それとですが」
主はここで想念に自分から言った。
「お坊様は朝早いですね」
「そのことですか」
「寅の刻の前には起きられていますね」
「そして座禅を組み経を詠んでいます」
つまり修行に励んでいるというのだ。
「僧籍にあるので」
「だからですか」
「もう自然とです」
寅の刻前にはというのだ。
「目が覚めて」
「修行をされていますか」
「左様です」
「それは立派ですね」
「いえ、僧籍にあるなら」
それならとだ、想念は主に当然といった顔で答えた。
「それはです」
「当然ですか」
「はい」
こう答えるのだった。
「左様です」
「そうなのですか」
「明日もです」
「その頃に起きられて」
「修行をします」
想念は主に微笑んで答えた、そしてだった。
次の日も実際にその頃に起きて修行に励んだ、座禅をして経を詠んだ。それから日の出と共に風呂を使わせてもらおうとそちらに向かったが。
その時にだ、彼は宿の廊下を進み脱衣場に入る時にだった、声を聞いた。
「さて、入るか」
「この声は」
想念はその声を聞いてまさかと思った、そして。
耳を澄ますと声は風呂場の中から聞こえていた、これで間違いないと思い。
風呂場の中を覗いた、すると。
朝日に照らされた風呂場の中には誰もいない、しかし。
あの黒く丸い石があった、石はゆっくりと転がってだった。
風呂場の中にぼちゃんと入った、そしてその中で声がした。
「ふう、いい湯だ」
「何と、声の主はそなただったか」
想念は思わず風呂場の中に入って言った、服はまだ脱いでおらず僧服のまま
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