第四章
[8]前話
「化かす位やと」
「そうですね、狸や狐は昔からですし」
池田は二郎の言葉にも応えた。
「ほなそういうことで」
「今回はですね」
「ええですわ」
「ほんまにそうですね、ほなそういうことでな」
池田は二郎との話を終えると狸に向きなおって話した。
「あんたには何もせんわ」
「見逃してくれますか」
「生きがいやし止めてもやろ」
「せずにいられんです」
「しかも人を襲わんな」
「それは絶対です」
「それやったらええわ」
こう狸に言うのだった。
「そういうことでな」
「ほなこれで」
「何処か行くとええわ、ただまた悪戯してな」
「その話を聞いたわ」
「わしはまた自分のとこに行くからな」
「そうならんことを願ってます、ほなこれで」
狸は池田と二郎に頭を下げてその場から消え去った、それはまさに煙の様であった。狸が消えたのを見てだった。
池田は二郎にまた顔を向けて言った。
「ほなこれで」
「一見落着ですね」
「そうなりました」
「ほな後はどうしますか」
「ここに一泊して大坂に帰ります」
池田は二郎に笑って答えた。
「そうします」
「そうですか、ほな今日はことが終わったお祝いで飲みますか」
「河内のお酒ですか」
「大坂にも出回ってると思いますけど」
「ええですね、ほな宿に戻ったらそれを」
「それで枝豆も」
これもというのだ。
「どうですか」
「ええですね、ほな明日大坂に戻る前に」
「一杯やりましょう」
「ことを終わらせたお祝いに」
こう話してだった。
二人は坂を後にした、そうして池田は二郎と祝いの酒と枝豆を楽しみ翌朝彼と笑顔で分かれて大坂に戻った。
この話はこの池田が大坂に戻ってから話したことだという、その話が今も残っている。河内に残っている古い話である。
負われ坂 完
2020・10・19
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