第六章
[8]前話
「洒落になってないな」
「ああ、しかしな」
「しかし?」
「世の中本当に一番わからないことはな」
それはというと。
「人間の心だな」
「本心だな」
「ああ、それが一番わからなくてな」
それでというのだ。
「不思議なものでな」
「謎だよな」
「ああ」
こう昭介に言った。
「本当にな」
「俺もそう思う、というかな」
「そんなとんでもないこと企んでいる人もいるんだな」
「そうだな、俺は今心から言うな」
昭介は前置きしてから峰雄に話した。
「これは洒落になってない、そしてお前が引っ掛からなくてな」
「それでか」
「よかったと思ってる」
「俺もほっとしてるよ」
心からだ、峰雄も語った。
「誘いに乗らなくてな」
「よかったか」
「ああ、本当にな」
「そうだな、実はお前が羨ましいとも思ったさ」
「美人に声をかけられてか」
「最初話を聞いた時はな」
「俺も乗って不倫でもしようかと思ったさ」
峰雄もその時の心で思ったことを話した。
「そうな、けれどな」
「乗らなくてよかったな」
「ああ、本当に人の本音ってわからないな」
「こんなにわからないものはないな」
「このことであらためて思ったよ」
誘いに乗らなくてよかった、ひやひやとした気持ちで言った。
「実際に」
「そうだな、じゃあな」
「これからもな」
「お互い気をつけていこうな」
「そうしような」
昭介の言葉に頷いた、そうしてだった。
峰雄は人の本音がどれだけわからないものでありそこにあるものは危険な場合もあるということを心に刻み込んだ、このことは一生忘れなかった。何よりもわからないものでありかつ恐ろしいと思ったからこそ。
不思議と謎 完
2020・11・18
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