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動物嫌いの父と身体の弱い猫
第二章

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 そうして数年が過ぎて。 
 ミルが体調を崩すと力也も珠緒も狼狽した。
「大丈夫かな」
「ミルは身体が弱いから」
「只の風邪でもどうなるか」
「心配だわ」
「すぐに病院に連れて行け」
 ここで父がこう言ってだった。
 十万円出してさらに言った。
「車は俺が運転する、金はここにある」
「治療費はうちで出すのに」
「たまたまあった」
 母にこう返した。
「それだけだ」
「そうなの」
「行くぞ」
 こう言ってミルを一家で病院にすぐに連れて行った、すると獣医は一家に言った。
「只の風邪でも危ない娘ですがすぐに連れて来てくれたので」
「だからですか」
「入院は必要ですが」
 それでもとだ、獣医は母に話した。
「助かります」
「よかったです」
「そうか、帰るぞ」
 父はそう聞くとミルを獣医に任せて帰った、そして退院の日になると会社を途中で抜けてきてだった。
 病院から家に連れて帰った、そうして。
「無事だった」
「あの、連れて帰って来るなら」
 パートから帰った妻は夫に怪訝な顔で言った。
「私が行ったのに」
「たまたま仕事が暇だったからな」
 こう妻に返した。
「だからだ」
「連れて帰って来たの」
「仕事帰りにな」
「ニャ〜〜〜ン」
 そのミルは傍にいる、くっついてはいないが横にちょこんと座っている彼女を夫はどかそうともしていなかった。
 そのうえでだ、自分の妻にこう言った。
「もう元気だ」
「あの、ひょっとして」
 妻は夫に怪訝な顔で言った。
「あんた動物好き?」
「嫌いだ」
 夫の返事はこうだった。
「いつも言ってるだろ」
「じゃあどうして嫌いなの」
 実はその理由ははじめて聞いた。
「一体」
「死ぬからだ」
 これが夫の返事だった。
「だからだ」
「それでなの」
「そうだ、だからだ」
 それ故にというのだ。
「そういうことだ」
「よくわかったわ、じゃあミルはこれからもなのね」
「大事にしろ」 
 妻に不愛想に返した。
「いいな」
「よくわかったわ、長生きする様にしていきましょう」
「俺は知らん」
 返事は相変わらずだった。
「そうしろ」
「ええ、あんたもその方がいいしね」
「家族が多いならそれでいい」 
 夫は今度はこう答えた、そして。
 ミルは見なかったが彼女が傍にいても何もしなかった。そうしてだった。
 ミルとずっと一緒に暮らした、それは息子が成人してからもだった。身体が弱いながらもミルは元気に暮らして父の傍にいるのだった。何も言わない彼の傍に。


動物嫌いの父と   完


                  2021・5・18
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