第百二話 荀ケ、帝を甘やかすのことその一
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第百二話 荀ケ、帝を甘やかすのこと
袁術は政務を執りながらだ。傍らに立つ張勲に言った。
「今思ったのじゃが」
「今思ったといいますと?」
「わらわは今司徒じゃな」
「はい、三公の一つの」
「そうじゃな。しかし前は司空ではなかったか?」
ふとだ。そう感じたのである。
「そうだったと思うが」
「そういえばそうですね」
「七乃もそんな気がするのじゃな」
「言われてみればそんな気もします」
「司徒と司空ではやることが違うがのう」
「孫策さんは太尉のままですけれど」
それは変わらないというのだ。
「けれど美麗様は」
「あの司馬尉と入れ替わっておるか?」
「同じ三公であってもですね」
「その辺りがわからぬが」
「そうですね。けれどいいと思いますよ」
張勲はにこりと笑って袁術に話した。
「それもまた」
「よいのか?」
「美羽様で五代に渡って三公ですから」
袁家としての話だ。
「まさに位人臣を極めておられますよね」
「そうじゃな。わらわも三公じゃ」
そう言われるとだ。素直に笑顔になる袁術だった。
「ならばそれでよしとするか」
「はい。ただ司馬尉さんは」
「あ奴はのう」
「劉備さんの噂も流してましたし」
「あれで結構陰険じゃな」
「陰険といいますか」
それとはまた別にだというのだ。
「剣呑ですね」
「剣呑か」
「はい、剣呑です」
張勲は司馬尉をこう捉えていた。
「京観のことといい今回のことといい」
「確かにそうじゃな」
「顔立ちは整っていてしかも品がある感じですが」
「実際は違うのう」
「はい、冷酷ですし陰湿です」
「して剣呑じゃな」
「ですから御気をつけ下さい」
張勲はにこやかな顔だがそれでもだ。
言葉は真剣だった。その声で主に話すのである。
「美羽様も油断していては」
「そうじゃな。そういえば麗羽姉様も曹操もじゃな」
「白装束の一団に襲われていましたそうですね」
「都での戦いでも出て来おったしのう」
「あれじゃな。于吉や左慈の部下じゃな」
「そうですね。それは間違いありません」
「また怪しい部下達じゃな」
ある意味でだ。彼等に相応しい部下達だった。
「今度出て来たら全員ぎゃふんと言わせてやるのじゃ」
「美羽様、お言葉が古いですよ」
「むっ、ナウくないか」
「それも古いですから」
「そうなのか。まあよい」
そんなことにはこだわらない袁術だった。そうしてだ。
今度はだ。こんなことを言うのだった。
「ではじゃ。今はじゃ」
「はい、今は?」
「この仕事が終われば蜂蜜水じゃ」
それを所望だというのだ。
「そしてじゃ。凛も呼んで欲しいのじゃ」
「凛ちゃんもですね」
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