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ユア・ブラッド・マイン―鬼と煉獄のカタストロフ―
episode15『逢魔シン』
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(おに)を焼き続ける煉獄の世界。逢魔シンを傷つけ続けてきたそれは、他の誰でもない彼自身が生み出した世界なのだ。

「いたい」

『そう、だよね』

 少しづつ、少しづつ、僅かに進む度に逢魔シンの世界がほどけていく。彼の抱える全てに近付いていくのが分かる。
 けれど、まだ完全に理解しきれていない。まだ逢魔シンの全てを、宮真ヒナミは知れていない。彼の世界の全てを、逢魔シンの痛みの全てを、理解しきるには決定的な何かが足りない。

 ほんの少し、ほんの少しと這いずりながら進む。僅かにしか動いていない筈ではあるが、それでもこの魂と情報の世界において、確かにシンの奥底へと近づいている確信があった。

「くるな」

『ううん、行くよ』

 彼自身、何か言葉を発している自覚はきっと無い。だって彼はシンのこころの奥底に眠っている彼の歪み、彼自身認識する事のなかった彼の世界の根源なのだから。

「ころして」

『あなたは生きるの』

「やめろ」

『やだ』

「ごめん」

『あやまらなくたっていいんだよ』

 支離滅裂な言動のようにも思えるそれは、ヒナミに向けられたものではない。シンの壊れてしまった心の中にどんどんと蓄積してしまっていた彼自身の苦しみの発露、それら全てを、逢魔シンを傷つけ続ける“毒”を片端から否定して、もがき、暗闇を進んで――。


『――ようやく、見せてくれたね』

「……ぁ」


 酷い、有様だった。

 血液の海の中心に座り込んだ彼の姿は、確かに伝承の鬼の如き姿に間違いない。
 額から伸びる赤黒い二本の角、どす黒く変色した眼球、口周りを覆い尽くす深紅のアギト。更には体の至る所から同じく赤黒い棘をいくつも伸ばして、血に浸されて真っ赤に変色した両腕の先には触れるだけで指でも落とされそうな爪が伸びている。

 紛れもなく怪物の様相だ、あれが逢魔シンの垣間見た世界の姿というのであれば確かに、自らを『ばけもの』と称するのも頷ける。
 けれど、きっと今のシンの姿は、シンが見ていた世界とは違う。

 何せ、彼の全身は“いっそ殺してやった方が幸せなのではないか”とまで思ってしまうほどに、数えきれない無数の傷に包まれていたのだ。
 それらは全て、物質界(マテリアル)の彼の肉体を何度も傷付け続けたものに他ならない――否、現実発生した傷跡をはるかに上回る数のものだ。しかもそれら全ては未だ癒える事無く、彼に罪の烙印を残し続けている。

 見るに堪えない幾つもの傷から溢れ出す血が、足元を浸すこの血液の海を生んでいたのだ。

『ねぇ、“シン”』

 予感は今、確信へと変わった。
 逢魔シンの抱える歪む世界とは、単なる『自らが鬼に見える』なんてものではなかった。

『―
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