episode15『逢魔シン』
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って腹部を見下ろせば、ヒナミのちょうど臍の横辺りに、深い抉れたような“欠け”が生じていた。
だが、何もない。
何もなかった。その傷以外には何もなかったのだ。
ヒナミの肉体を抉った何かすらもない、ただそこに傷だけが生まれたような様だった。小さく千切れた肉片が、血液の流れに押されて足元の床へと落ちた。
『っ、あぁ……ぐ!』
苦痛に耐えかねて、ぱしゃりと足首ほどまでを浸す水面に両手をつく。ピッと跳ねた生暖かいそれが、頬についてつうっと流れた。
気が付けば、足元に広がる水面は、赤黒い血液のような色に染まっていた――いや、きっとこの水面全ては血液そのものなのだろう。
この世界そのものが伝えてくる。どうしようもなく伝えてくる。
ここは、逢魔シンの痛みそのものなのだと。
『し、ん……っ』
どろりとした血液の、或いは痛みの海を這いずりながら、僅かずつでも進む。ここは物理法則に縛られた世界ではなく、存在そのものの揺蕩う世界だ。ただ進もうとする意志のみが、この世界での行動の基盤となる。
「ころした」
『っ、あ”、ぁぁ”ぁッ!!?』
這いつくばるヒナミの四肢に、肩に、背中に、風穴でも開けられたような痛みが走った。ぐずり、ぐずりと傷口をほじくり返されるかのような異常な激痛、肌を鋭い切っ先で切り開かれるかのような感触、たまらず悲鳴じみた絶叫が口からあふれ出る。
間違いなく、この痛みはシンが齎したものだ。逢魔シンの意志がこの苦痛を、この残酷を生み出している。
誰よりも優しい筈の少年が、こんなあまりにも酷すぎる仕打ちを引き起こす元凶なのだ。
けれど。
『――この、きずを、知ってる』
宮真ヒナミは、この痛みを知らない。
しかし、宮真ヒナミはこの傷を知っている。
逢魔シンが垣間見た世界が齎した逢魔シンの破滅の一片、彼自身の肉体を何度も何度も傷付け続けた無数の疵。
彼に触れて、深層に至り、世界に触れた今だから分かる。
『これは、あなたの、痛みなんだね』
これは、宮真ヒナミの受けた傷ではなく。
逢魔シンが自らに課し続けている、あまりに酷な罰。罰されなければならないと、許されてはならないと、自らを戒め続けてきた彼が無意識下で積み重ねてきた、自分自身へと向けた処刑。
OI能力者の位階は高まっていくほどに、そのイメージの構成要素が増えていくと言われている。振鉄位階の歪む世界にもなれば、単一の構成要素で歪む世界が組み上げられているとも思えない。
逢魔シンの世界を構成する要素は、まずは自らを鬼……つまりは悪として定義する認識。
そして。
『――これが、悪を滅ぼすための、罰』
自らとい
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