第一章
[2]次話
政治将校
この時ソビエト陸軍の政治将校フョードル=コズイネン大尉は同僚のセルゲイ=ドロコビッチ大尉の話に沈んだ顔になった、そのうえでこう言った。
「同志マレンコフ大尉もか」
「そうだ、部隊の戦果が上がっていなくてな」
「粛清か」
「即座にその場で射殺されたそうだ」
そうなったというのだ。
「最前線でな」
「そうなったか」
「誰でもだ」
それこそ政治将校でもとだ、ドロコビッチはコズイネンに話した。二人共大柄で金髪のスラブ系の外見だ。コズイネンの目は灰色で四角い顔でドロコビッチの目は黒で鼻が赤い。
「同志スターリンが駄目だと判断するとな」
「処刑だな」
「そうなる、そして少しでも人民の敵とみなされるとだ」
「今はシベリアどころかな」
「すぐにだな」
コズイネンは言った。
「まさに」
「そうだ、その場でだ」
戦場でというのだ。
「銃殺かだ」
「若しくはだな」
「懲罰大隊送りだ」
そうされるというのだ。
「どちらかだ」
「どちらにしても死ぬ」
コズイネンは深刻な顔で言った。
「それこそ今こうして我々が話していることが誰かに聞かれれば」
「我々がだ」
まさにというのだ。
「そうなる」
「少しでも部隊の戦績が悪くな」
「党に少しでも批判的だとみなされれば」
「我々は終わりだ」
「政治将校はな」
「しかも最前線だ」
今自分達がいる場所はとだ、コズイネンはドロコビッチに話した。
「ここはな、すぐ目の前にナチがいる」
「そうだ」
二人は今夜のテントの中にいる、そこで声をこれ以上はないまでに潜めて話している。だがその外ではだ。
砲撃が聞こえてくる気がする、実際に何時聞こえてきてもおかしくない。そんな中で話をしているのだ。
「だからな」
「戦争でもだ」
「死ぬかも知れない」
「若しくは混戦の中でな」
ドロコビッチはこうも言った。
「後ろから撃たれる」
「部隊の将兵からな」
「同志達にな」
「同志達と言うが」
コズイネンは深刻な顔で言った、自分達が所属している部隊の者達のことを。
「彼等にとって我々が一番の敵だ」
「目付け役だからな、我々は」
「党からのな」
「だからな」
それでというのだ。
「混戦になれば」
「また次の政治将校が送られるが」
「とりあえず嫌な奴がいなくなる」
「密告して自分達を処刑台に送る連中がな」
「だからだ」
それ故にというのだ。
「混戦になれば」
「後ろから一撃だ」
銃のそれが来るというのだ。
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