第二章
[8]前話
山本はこの夜選手達と共に飲んだ、兎に角審判の判定が不服であったからだ。
それで自棄酒を飲んでいるうちに冷静になってこんなことを言った。
「試合放りだしたけどな」
「はい、今日は」
「そうしましたね」
「あんな判定したらやってられません」
「それも当然です」
「そやけどな」
冷静になった顔で共に飲む選手達に話した。
「お客さんそしてフロントには申し訳ないことしたな」
「折角の試合を放り出した」
「幾ら判定に不服とはいえ」
「それでもですね」
「そや、わしは監督やし没収試合にもさせた」
責任者であることは明白だというのだ。
「そやから責任は取る」
「そうされますか」
「今回のことは」
「そうしてですか」
「この話終わらせるわ」
このことを決意した、当然ながらこの件は山本の責任問題となった、だが機構側の出した山本への処罰は誰もが驚くものだった。
「山本一人監督の人徳に鑑み不問とする」
「わしの人徳でか」
これには山本自身も驚いた。
「不問か」
「あれは怒って当然の状況でしたし」
南海球団のフロントの者が山本に話した。
「それに監督がどうした方かは皆知ってますし」
「それで、ですか」
「はい、監督でしたら」
山本ならというのだ。
「もうこの処罰もです」
「不問でもですか」
「当然です、これからも監督としてお願いします」
「お客さんにもフロントにも迷惑かけましたけど」
「そう思われるからですよ」
フロントの者は山本に笑って話した。
「人徳があるんですよ」
「そういうことですか」
「オーナーも監督を正しいと言っておられますし」
川勝オーナーもというのだ。
「不問は当然と言っておられますし」
「ほな南海は」
「今申し上げた通りです」
監督を続けて欲しいというのだ、こうしてだった。
山本は今回の件は実際に不問となって南海の監督を続けた、そうしてパリーグ随一の強豪チームを率いて監督としての勝利数一位という不滅の記録を打ち立て九度のリーグ優勝に二度の日本一を達成した。
山本一人、後に鶴岡一人と姓を変えた彼は抗議しない監督として有名であった、それはこの件が大きく影響していたことはよく言われている、そして後にも先にもその人徳によって不祥事と言っていい行為が不問となった人物も日本球界では彼だけである。かつて日本球界にはこうした人物がいたことは特筆すべきである、そう思いここに書かせてもらった。少しでも多くの人が読んで頂ければ幸いである。
人徳 完
2020・10・18
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