第三章
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「そうしてくれるでごわすな」
「わかったでごわす」
「それなら今から」
「行くでごわす」
西郷は大久保に笑って言った、そしてだった。
噂の岩のところに着いた、すると実際にだった。
岩の上に杓子が出て来た、そうして岩が言ってきた。
「味噌をくれ」
「どれだけ欲しいでごわすか」
西郷は岩に笑って問い返した。
「一体」
「くれるのか」
「欲しいもんはあげるでごわす」
岩にこうも言った。
「物惜しみは好きでないでごわす」
「何と、そう言うか」
「あれば」
そうであればというのだ。
「一緒に食うでごわす」
「わしが味噌でもか」
「人と同じでごわす」
西郷は大きな口を開けて笑って返した。
「岩も心があり喋るなら」
「そうなのか」
「ではこれより味噌をあげるでごわす」
こう言って実際にだった。
西郷は自ら岩の上に出ている杓子に味噌を山盛りに入れた、そのうえで岩に対してどうかと尋ねた。
「これでいいでごわすか」
「うむ、しかしはじめてだ」
「おはんに味噌をくれた人はでごわすか」
「これまでなかった」
そうだったというのだ。
「皆驚くばかりでな」
「そうでごわしたか」
「岩が喋るとな」
「しかも味噌を欲しがるので、でごわすな」
「驚いてな」
そうしてというのだ。
「逃げるばかりだったが」
「おいどんはでごわすか」
「全くこだわらず味噌までくれるとは」
「今言った通り欲しいものはあればあげるでごわす」
西郷の返事は変わらなかった。
「そういうことでごわす」
「そうなのか」
「それでおはんは味噌をどうして食いもっそ」
西郷は岩に今度はこのことを問うた。
「それで」
「このまま岩を身体の中に入れてな」
「そうしてでごわすか」
「食うのじゃ」
「そうするでごわすか」
「左様、杓子ごと中に入れてな」
「そうでごわしたか」
「では頂こう」
岩は西郷に行って味噌が山盛りに入れられた杓子を消した、そうして暫く経ってから西郷に話した。
「美味い味噌だな」
「薩摩の味噌でごわす」
「そうなのか」
「美味いと言われて何よりでごわす」
「それは何より」
「それとおはんこのままずっとここにいても味噌は食えないでごわす」
西郷は岩にこうも言った。
「だからでごわす」
「場所を変えてか」
「暮らすべきでごわす」
「この様な山の中では滅多に人も通ることはないでごわす」
大久保も言ってきた。
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