第一章
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杓子岩
備前の国今の岡山県の話である。
ある道で人がある岩の傍を通るとその岩から杓子が出て来て味噌を所望する、しかも。
この時岩が味噌をくれと言ってくる、そうした話があった。その話を聞いてだった。
丁度薩摩から都に上がろうとしていた西郷隆盛は幼馴染みであり自分の軍師もしてくれている大久保一蔵に笑って話した。
「味噌が欲しいという岩とは面白いでごわすな」
「いや西郷どんそれがでごわす」
大久保はその細長く鋭い目の顔で述べた。
「そこを通るモンは皆怖がっているとか」
「ああ、岩が喋ると」
「人でないもんが喋るとなると」
どうしてもというのだ。
「普通のモンは怖がりもっそ」
「おいどんは別でごわすか」
「皆西郷どんの様な肝っ玉は持っとらんので」
それでというのだ。
「今備前では皆怖がっていもっそ」
「そうでごわすか」
「だから皆その道を通らんというでごわす」
「そうでごわすか」
「そうなっていもっそ」
「それではでごわす」
西郷はその大きな澄んだ目を微笑まさせて大久保に述べた。
「これから薩摩から都に行くでごわす」
「そんでその途中に備前も通るので」
「そこで、でごわす」
「その岩ばとこに行って」
「実際にその岩が杓子を出して味噌を欲しがるか」
喋ってというのだ。
「見るでごわす」
「そんで見てどうしもっそ」
「そこからはでごわす」
西郷は大久保に笑って答えた。
「おいどんに考えがありもっそ」
「そうでごわすか」
「では」
「これからでごわすな」
「都に上がりもっそ」
こう言ってだった、西郷は。
大久保と共に都に上がった、その途中多くの薩摩の者達も一緒だった。皆道中都のことを話していた。
「都はまた物騒だとか」
「長州と新選組が争い」
「血が常に絶えぬとか」
「そして土佐モンも多いとか」
「人斬りも多いとか」
「そうでごわすか、出来れば流れる血は少ないであって欲しいでごわすな」
西郷は仲間達の言葉を聞いて述べた。
「やはり」
「西郷どんはいつもそう言われるでごわすな」
「血は流れても少ない方がよか」
「出来れば穏やかに済む」
「それが一番だと」
「こうしたご時世なので血は流れるでごわす」
どうしてもというのだ。
「しかしでごわす」
「それでもでごわすな」
「それは出来るだけ少なくばして」
「天下はすぐに穏やかになる」
「そうなるべきだと」
「正直今は戦をしている時ではないでごわす」
日本はというのだ。
「西洋の列強が日本を狙っているでごわす」
「英吉利に仏蘭西が」
「そして露西亜と」
「色々な国がでごわすな」
「だからでごわす」
それ故にというのだ。
「今の天下のご
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