第四章
[8]前話
「これからも夫婦で仲睦まじくな」
「その様にする」
蛇五右衛門も約束した、そうして夫婦で天海にあらためて礼を述べた。天海はその後で弟子を連れて江戸への帰路についた。
その帰路の中で天海は弟子に話した。
「妖怪にも心がある」
「人の様にですね」
「そして夫婦になればな」
それならというのだ。
「絆も出来る」
「そのことをですか」
「そなたにだ」
「観せてくれたのですね」
「うむ」
そうだというのだ。
「その様にした」
「左様でしたか」
「そのことがわかったな」
「はい」
弟子は確かな声で答えた。
「そうなりました」
「それならよい、だから無闇に倒すのではなくな」
「あの様にしてですか」
「穏やかにことが済むならな」
「その様にすればよいですか」
「そういうことじゃ、妖怪も人と同じじゃ」
「心があるのですね」
天海に対して述べた。
「そしてそのことからですね」
「どうするかがな」
「肝心なのですね」
「そのことを覚えたな」
「確かに」
弟子は微笑んで答えた。
「そうなりました」
「それは何より、上様にもこのことは申し上げる」
「妖怪にも心はある」
「人と同じくな、そのことをわかったうえで政を行えば」
天下の政、それをというのだ。
「妖怪のことについて天下は治まる、では江戸に戻ってな」
「そうしてですね」
「また政のことを考えよう」
こう言ってだった、天海は高齢とは思えぬ確かな足取りで道を進んでいった。弟子はその師匠に問うた。
「僧正はもう百十を越えておられますが」
「歳はじゃな」
「それでその健脚は」
「ははは、毎日正しく生きていればな」
「百十を越えてもですか」
「この通りじゃ、お主も正しく生きていればこうなれるぞ」
天海はこのことは笑って言ってだった。
江戸まで戻ってそうして家光にことの次第を話した、すると家光はこれでよしと笑って言った。そして幕府はその政をより確かなものにした。江戸時代初期の話である。
蛇五婆 完
2020・11・12
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