第一章
[2]次話
実は二人で
仙台藩江戸屋敷において藩士達が眉を顰めさせて話をしていた、彼等は自分達の藩に来たある者達の話をしていた。
「あの御仁達どう思うか」
「怪しいですな」
格下の者が格上の者に答えた。
「やはり」
「お主もそう思うか」
「あの御仁伊賀の出です」
「伊賀といえばな」
「伊賀者です」
即ち忍の者だというのだ。
「何といいましても」
「しかも藩にお仕えしておった」
「そうであるならです」
「俳人というがな」
「俳人でもその旅路がです」
「幕府が目を付けている藩ばかりであるな」
「それを巡っておりますし」
それにとだ、格下の者はさらに話した。
「しかもです」
「さらにであるな」
「はい、その歩みがです」
旅のそれがというのだ。
「異様に速いです」
「並の者の足ではないな」
「はい、ここまで考えますと」
「あの御仁、松尾芭蕉殿はな」
「そして河合曾良殿も」
その彼もというのだ。
「どう考えましても」
「怪しいのう」
「しかも松尾殿の母君はあの百地家の出とか」
「あの伊賀者の棟梁のな」
「そこまで考えますと」
「ではあの御仁が我が藩の領地に来た時はな」
「気を付けねばなりませぬな」
「そうであるな」
こうした話をしていた、これは仙台藩だけでなくだ。
多くの藩の者が松尾芭蕉という俳人を実は忍の者即ち幕府の隠密ではないかと疑っていた。それでだ。
彼が旅に出ていない間も目を光らせていた、そうして口々に言うのだった。
「一体何を探っておる」
「我が藩のことを探っておるのか」
「今は旅に出ておらぬが」
「それでもか」
「俳人と言っていて実は」
「我が藩を探っておるのか」
こう考え警戒していた、しかし当の芭蕉はそうした目や声に気付いているのかいないのか花鳥風月それに曾良を友としてだった。
俳句を詠み続けていた、そのうえで自身の落ち着いた趣の気品のある家の中で曾良に対して穏やかに微笑んで話した。
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