第1話
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ました。
ガラスケースの中は狭いうえに、音が通りません。
ですが、前に立つ人たちは興味深そうにケースをのぞき込んだり、指をさしたりしていました。
ドローンくんは、来てくれる人たちに何かできることはないのか考えました。
照明のエネルギーだけでも、プロペラやアーム、その先にある三本指を、ある程度動かすことができます。試しにプロペラを回転させてその場で少しだけ跳ね、ピースサインを出してみました。
すると、前に立っていた子供はとても喜びました。そして喜ぶ子供を見ていた大人も嬉しそうな顔をしてくれました。
うまくいったと判断したドローンくんは、それを続けるようにしました。
訪れる人たちはみんな喜び、笑顔になりました。
来館者の役に立てて、ドローンくんはとても満足でした。
ところが、その生活も終わるときがやってきます。
突然、いつもの何倍もの数の人たちが来館する日がありました。
みんな、笑顔ではありませんでした。子供たちは泣いていて、大人たちは深刻な顔をしていました。
「よくわかりませんが悲しまないでください」と、ドローンくんはガラスケースの中から言いました。もちろんその声は届きません。
閉館後、ガラスケースが開けられました。
「博物館の廃止が決まった。以後は電子博物館に引き継がれる。ドローンくんの役割はこれで終わりだ。有害ゴミとして冥王星に送られ、廃棄処分されることが最後の仕事になる」
そう告げられました。
ドローンくんは、宇宙船に積まれました。
行き先は冥王星。太陽系内における、人体に有害な物質を含むゴミがすべて集められ、処理されるところです。
暗い部屋でゴミの中に置かれ、すっかり意識がなくなっていたドローンくん。
そこに、こっそり近づいてきた小さい女の子がいました。
女の子は、慌てた様子でドローンくんの体に何やら物を取り付けていきます。その背後で、一人の大人の男性が作業を見守っていました。
そして作業が終わると、女の子は宇宙船の放出口からドローンくんを外に放り出しました。
宇宙空間で太陽の光を浴びたドローンくんは、目が覚めました。
意識は宇宙船の中の部屋に置かれたところまでで途切れていたため、慌てました。
すでに宇宙船は見えませんし、プロペラを回しても進行方向を変えられません。
ドローンくんは仕方なく、宇宙空間をそのまま流され続けました。
宇宙の景色はとても素晴らしいと思いました。
無数に輝く星の光。お世話になった家でテレビ越しに宇宙の映像を見たことはありましたが、そのときよりもずっときれいに見えました。
しかしすぐに、ドローンくんはそんな気持ちに浸ってはいけないと思いました。
冥王星
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