始まりから夏休みまで
兄の話
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諦めかけたその時、
振り向けばなんとスーツの男達は立ち止まっている。
諦めてくれた。と思う恋だがそうではない。
だって彼が今走っている場所は、飛び出した場所は、
赤信号の交差点だったのだから。
「え…?」
ふと横を見れば、すぐそこにまで迫った大型トラック。
逃げきれたという嬉しさが漏れ出す笑顔のまま、恋はスピードの緩めていないトラックに正面から衝突。
そのまま吹っ飛び、腕や脚はありえない方向に曲がって交差点のど真ん中に投げ出された。
悲鳴が反響し、周囲がどよめく。
「救急車読んだ方が良くね?」「やべーよ、事故だよ。」「やばくね?呟こ。」「俺達は悪くない。飛び出したあいつが全部悪い。」
色んな声が聞こえる。
そして話し声に紛れて時々聞こえるのはシャッター音。
撮るな、助けろ。と言いたいが生憎掠れた声しか出ないし立ち上がることも出来ない。
腕、脚、体、とにかくありとあらゆるところが全部痛い。
目に映るのは夜の空。
薄れる視界。
だがそんな時、あるものが映り込んだ。
「キミが、葛城恋くんだね?」
倒れた自分を覗き込む、黒い肌の男。
いかにも自分が葛城恋だが、こいつは何者なのだろう。
「なに、私はただのしがない神父さ。」
そう思うと、神父は笑顔で答えた。
「キミのような逸材がここで死ぬのは勿体無い。チャンスをあげるよ。それに力もあげよう。キミが思うままに好きにできる、望み通りの力をね。」
神父が手を差し伸べる。
俺が逸材?どうやらこの神父、俺の事をよく分かっている。
そして生き返らせてくれる上に、力もくれる。
そんな条件飲むしかない。
痛む手を伸ばして彼は神父の手を掴んだ。
「キミは舞台に上がって暴れて欲しい。状況を引っ掻き回して、いろんなことをするんだ。キミも見たいだろう?弟くんの絶望する顔。欲しいだろう?弟くんの持ってる彼女。じゃあ、兄として弟から過ぎたオモチャは取り上げないとね。」
ああ、そうだ。
受験に落ち、仕事も見つからず、友人関係もうまくいかず、そして今こうして死んだのも全部弟のせいだ。
弟が悪い。弟が憎い。
だから復讐だ。お仕置きだ。
兄として教育し直してやる。
覚悟しろ。
お前の何もかも全部奪い取って、二度と兄に逆らえないようにしてやるからな。
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