壱ノ巻
由良の縁談
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そんな、まさか。
寝耳に水もいいとこで、呆然とするあたしに姉上様は涙を零しながら言う。
「…ごめんなさい瑠螺蔚さま。私意地悪ね。でも、私…もう」
童が三人、川縁を楽しそうに駆け回っている。
あたしと、兄上と、高彬。
高彬は隣の佐々家の子で、あたしたちの幼馴染だ。
…これは夢?
夢よね?だってこの日は…。
目の前の小さいあたしがきゃらきゃら笑いながらいきなり駆け出す。
―――――そうだ、これは夢。
あまりにも鮮明で、忘れられない過去。
「瑠螺蔚!」
「瑠螺蔚さん!」
二人の鋭い声が飛ぶ。
小さいあたしは良く見ないで駆け出したものだから、川に落ちたのだ。
渦に飲まれて、何がなんだかわからなくて、苦しくて…。
「僕、人を呼んでくるっ!」
高彬は青ざめた顔で、矢のように走り去る。
兄上も血の気が引いた顔で、呆然と立ち尽くしていた。
あたしは波に揉まれながら、兄上に助けを求めようと、手を伸ばしていた。けれど、その手も、あっさり激流に飲み込まれる。
「瑠螺蔚ぃ――――――っ!」
兄上が叫ぶと同時に、なぜかあたしは兄上の腕の中にいた。
あたしはゲホゲホと咳き込んだ。
「に、兄様、あたしどうしてここにいるの…?」
「…瑠螺蔚、今、私は霊力で瑠螺蔚をここに呼び寄せたんだ。私には、そういう力があるんだよ」
「ぇ…?」
「今まで黙っていてごめん。だから、私に近づかないほうがいい。驚かせてしまってごめんね、瑠螺蔚」
兄上は、笑った。とてもとても悲しそうに。
だから、あたしはすんなり信じれた。霊力があるなんて突拍子もない話を。
「何でそんなこというの!霊力があるっていいことじゃない」
「いいことの訳、あるものか」
「どうして近づくななんて言うの!兄様はあたしのことが嫌いなのっ?」
「違うよ瑠螺蔚。そうじゃなくて…」
「兄様が嫌だっていうのなら、あたし誰にも言わない!だから、兄様ぁ…」
ぐしぐしと泣きじゃくるあたしをみて、兄上は、笑った。
「だから私は瑠螺蔚が好きだよ。ありがとう、瑠螺蔚」
兄上とあたしは、それから指切りをした。
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