第103話『予選H』
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険しい崖を越え、噴き出す水流を突破し、茨の森も駆け抜けた。一筋縄ではいかなかったが、それでも乗り越えてここまでやって来たのだ。
「これで、ラストですかね……」
「うん、そうみたい」
体力も魔力も限界に近く、気を抜けば倒れ込んでしまうほど弱った晴登がそう零し、それに風香は淡々と答える。
ラストの障害──彼らが見上げるその先に、確かにゴールが見えた。しかしその障害というのが、
「ここに来て山登りって……」
「ざっと1km。ここまで過酷とは思わなかった」
なんと2人の前に立ち塞がったのは、隆々とした山そのものだったのだ。もはや雲に届くのではないかと思うほど、空高く位置する山の頂上。そこがゴールなのである。
よく見ると、その山頂付近で大きな鳥の影──いや、誰かが魔術で翼を生やして飛んでいるのが見えた。どうやらトップはもうゴール目前らしい。
「はぁ……マジか……」
呼吸も兼ねる大きなため息をつき、晴登は眉をひそめる。それもそのはず、ここまで散々疲れさせられたのに、最後に今までで一番キツそうな障害があったのだ。もはや嘆かざるを得ない。
「くよくよしても仕方ないよ。とにかく登らないと」
「ぐ……わかってます」
風香に叱咤され、晴登は重い足を頑張って動かす。もう"風の加護"もまともに機能していない。ここからは自力での登山となる。
「はぁっ……はぁっ……」
登山道があるとはいえ、疲れ切った晴登からすればまるで沼の道。一歩一歩が重く、一度地面に付いたら中々離れない。
また斜面も険しく、少しでも後ろにバランスを崩せば転がり落ちてしまうことだろう。まさに過酷と呼べる。
前方を見ると、風香が素早く登っていくのが見える。やはりここでは、魔術師というより身体能力の差が出てしまっていた。インドア派の晴登と比べれば、風香は見るからに運動神経が良さそうだし。
そう思っていると、突然風香が振り返った。
「……ごめんね三浦君。さすがに私もこれ以上ペースを落とす訳にはいかないから、頑張ってついてきて」
「は、はい……」
なんて優しい人だろうか。もうゴールが目前だというのに、まだ晴登のことを気にかけてくれている。こちらは置いて行かれても文句は言えないというのに。
──それだけ、晴登が彼女に一目置かれているということ。
それがわかっていて、どうしてへこたれていられようか。いや、そんな暇はない。
「ふ、ぐっ……!」
己の弱った精神と足に鞭打ち、ひたすら一歩を踏みしめる。荒い呼吸を繰り返し、必死に酸素を取り込んだ。筋肉を、血を、骨を動かすために。前へ、前へと進むために。晴登は己に喝を入れ続け、風香の背
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