第103話『予選H』
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身には、その温かさがよく沁みた。
しかし、晴登がそう呟いた時には徐々に雲が集い始める。確信していた訳ではないが、経験上何となく察してしまったのだ。
「雨が、降るな」
雲は分厚く空を覆い、次第に黒ずんできた。風が止み、代わりに水の匂いが鼻をつく。予想通りだ。
雨は、好きじゃない。濡れるし、汚れるし、何だか憂鬱な気分になる。夢の中でまでそんな気分を味わうなんて、全くツイてない。
──ぽつりと、雫が晴登の元へと落ちてくる。
何てことのないただの水滴。当たれば濡れるだけの些細な露。そしてそれはあっという間に消えていく、そんな儚い滴りだと思っていた──次の瞬間だった。
その雫が、晴登の身体を脳天から貫いたのであった。
*
「うわぁぁぁ!!!???」
「うひゃあ!?」
予想だにしていない衝撃と感覚に驚いて身体が覚醒し、飛び起きる。そしてすぐに額に触れ、風穴が空いてないか確かめて安堵した。
「びっくりした……。いきなりどうしたのハルト?」
「え、結月……? てか、ここは……?」
目が覚めると、頭上には天井があり、横には結月がいた。どうやら倒れた後、どこかの部屋のベッドで寝かされていたらしい。
「ここは救護室だよ。ハルトってば、凄く無茶してたんだから」
そう言って、結月は腕を組んで頬を膨らませた。
辺りを見回すと、彼女の言うように、ここは保健室の様な所だとわかる。ベッドが何台か置かれており、それぞれを仕切るための白いカーテンがあった。今は晴登と結月以外は誰もいないようである。
「確かに、結構無茶したな……痛てて」
「まだ寝てなきゃダメだよ。体力も魔力もスカスカなんでしょ?」
「そうだな……」
慌てて飛び起きた反動が、今になって返ってくる。身体の節々が痛み、汗もびっしょりかいていて気持ち悪い。倦怠感も拭えないし、今は横になっておこう。
「それより、さっきの悲鳴はどうしたの? 変な夢でも見た?」
「変な夢……うん、変な夢だった。とても」
「ふ〜ん。まぁ疲れてるからだろうね。とにかく、無事で本当に良かったよ……」
そう言って、結月は晴登の手を握る力を強めた。余程心配していたんだろう。心からの安堵が見て取れる。それにしても、
「もしかして、俺が寝てる間もずっと手を繋いでたの?」
「そうだよ。だって、もう起きないかもって思ったら怖くて……!」
「わー待って待って! 起きたから! 泣かないで! ね?!」
「うん……」
まさか地雷を踏み抜くとは思わず、慌てて結月を慰める。女の子を泣かせちゃダメだと月に言われたばかりだと言うのに、不甲斐ない。
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