第103話『予選H』
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て、何とか前へと歩み続けた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
身体中に充分な酸素が行き渡らず、呼吸がより苦しくなり、視界もぼやけてくる。地面に足が付いている感覚まで薄くなり、一方寒気だけはひしひしと感じとっていた。
もう誰が見ても競技をやめた方がいいと判断できる状態。
──それでも、歩みを止める訳にはいかない。
もう既に何人かに抜かれた。もう好順位とは呼べないかもしれない。でも、ゴールしさえすれば、本戦進出の可能性は残されているのだ。
「絶対に……ゴール、するんだ……!」
力を振り絞り、己を鼓舞しながら前進する。その勇姿を誰が馬鹿にできようか。中学生だからと、子供だからと、そんな言葉で済ませてはいけない。
彼も──立派な魔術師だ。
『おーっと、ここでフラフラになりながらも山頂に辿り着いた選手がいます! もう少しですよ!』
「あれ【日城中魔術部】じゃないか?!」
「嘘だろ!? 過去最高難易度と噂のこの"競走"を乗り切ったのか!?」
「あんなに小さいのに……。頑張れ!」
「「「頑張れー!!」」」
耳に響く声の正体は、ゴール付近に集う観客の声援だ。しかし、実は今の晴登にはあまり届いていない。何せ、彼はほぼ無意識の状態でここまで来たのだから。まるで何かに導かれているかのように、ゆっくりだが辛うじてまっすぐ歩いている。
そしてついに──
『たった今、【日城中魔術部】がゴール致しました!』
そのアナウンスが流れ、晴登自身も本能でここがゴールだと察した瞬間、彼はバタリと地に倒れ伏したのだった。
*
晴登が次に目を覚ましたのは、草原の上であった。頭上には澄み渡った青空が広がり、草木の爽やかな匂いが鼻をつく。
一瞬天国かとも思ったが、ここには見覚えがある。そうか、また来てしまったのか。この"いつもの場所"に。
「……何だか身体が楽だな。全然疲れてない。さっきまで死にかけてたと思うんだけど」
悠長にも一番最初に感じた疑問は、なぜここにいるかというよりも身体の好調についてだった。
とはいえ、ここを夢の中の世界なのだから、現実世界での疲労は関係ないのだと勝手に結論づけてみる。
「さて、今回は何が起こるんだ?」
こう何度も同じ夢を見ると、さすがに慣れるというもの。
この世界では天気がよく移り変わり、そしてたまに誰かが現れる。その理由までは定かではないけど、少なくともわかっていることは、この夢はただの夢ではないということだ。
「今は晴れてるけど、どうせここから……」
雲一つない空に浮かぶ眩い太陽。さっきまで寒さに苦しめられていた
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