第103話『予選H』
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中を追いかけた。
滑りやすい道も、隆起した岩場も、多少の段差も、意地だけで何とか乗り越えていく。
──そして、山の中腹辺りまで来た頃だろうか。夏だというのに、少し肌寒い。そう思った瞬間だった。
「あっ……」
張っていた糸がぷつりと切れたように、バタリと晴登は倒れてしまった。何かに躓いてしまったのか? いや違う。これは──『酸素不足』だ。
これだけ高度が高くなってくると、当然酸素濃度も薄くなる。普段よりも少ない酸素量、加えて元より体力の限界が近かった晴登にとって、そこは地獄と相違なかったのだ。
「こんな、とこで……!」
まだ意識はある。が、身体を起こせない。酸素が身体を巡らず、力が入らないのだ。
何とか動かせた首をもたげてみるが、前方に風香の姿は見えない。
──あ、終わった。
ここまで幾度となく、ピンチを風香に助けられた。しかし、もうここに頼みの綱である彼女はいない。それならば、「終わり」だと結論付けるしかないだろう。
「はぁ……何してんだろ俺」
競技への熱が冷めていく。あれだけ息巻いていたのに、一度倒れただけで心が折れてしまった。何でこんな過酷なレースに参加してたんだっけ?
あぁ、このまま眠ってしまいたい。疲れているんだ。それくらい許されても良いじゃないか。ゴツゴツしてて寝心地は悪いけど、眠りにつけばどうせ気にならなくなる。
『……!』
何か、聞こえる。でも遠くて聞き取れない。
『……と!』
何だろう。もしかして救急隊とかだろうか。確かに倒れた人がいれば、彼らの出番だろうし。
『ハルト!』
「──っ!!」
その言葉がハッキリと耳に届いた瞬間、ハッとして晴登は無意識に顔を上げた。
──誰もいない。
いや、でも間違いなく今のは結月の声だった。一体どこから? この辺にいるはずだが……。
「幻聴か……」
そう思うと、笑いが込み上げてきた。
まさか幻聴まで聴こえてくるとは。やはり相当疲れているようだ。早く休んだ方が良い。それなのに、
「……諦めて、たまるかよ」
幻聴だろうと何だろうと、他でもない結月の声を聴いた。だったら、このまま地面に突っ伏している場合ではない。
──何のために走るのか。
晴登には仲間がいる。背負っている想いがある。それだけで、立ち上がる理由になる。
「一人じゃ、ないから!」
晴登は気力と根性で身体を起こし、立ち上がった。しかし限界はとっくに迎えている。気を抜けば頭から倒れそうだ。
だからこそ、それを防ぐように一歩を踏み出す。倒れる前に一歩。倒れる前に一歩。そうし
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