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ユア・ブラッド・マイン―鬼と煉獄のカタストロフ―
episode14『助けてと、そう言ってくれるのを待っていた』
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々に砕けて、バラバラに散って、ぐちゃぐちゃに絡み合った心の矛盾を、傷を、追い打ちのように歪む世界が深く抉る。

「誰も、僕を裁いてくれないんだ」

 少年法もある、OI障害法もある、何なら情状酌量の余地だって付いただろう。法律は彼を裁きはしなかった。更にはあの大火事だ、子供なのだし、錯乱したとも思われたのかもしれない。

 けれど、誰もが彼を許そうとも、誰もが彼に優しくしても、逢魔シンだけは逢魔シンを許さない。

 “悪”となった己を、許せない。

 ――けれど。

「……でも、でもだったらどうして、一度は契約を呑んだの?」

 マナから聞いた事だ。一度彼は製鉄師となる契約を結ぼうとして失敗したのだ、という話。
 契約を行った――それはつまり、歪む世界を消そうと試みたという事だ。それはつまり、彼自身の意志で自らの罪の象徴を消そうとしたということ。

 つまりは、一度はその罪を踏み倒そうとした証明だ。

 シンはヒナミの問いに目を見開くと、くしゃりと辛そうに顔を歪めて、そして無理やりに取り繕ったような笑顔で笑う。

「――きっと、ヒナミの考えてる通りだよ」

「――。」

 人間の性質は、一つの側面だけで完結はしない。
 悪人が善行を為し、善人が悪行を為す事もある。それはシンも例外でなく、その身に抱えた重荷に耐えかねた逢魔シンという罪人は、一度その罪をすべて投げ出そうとしてしまったのだ。

 極論、歪む世界の捉え方なんて個人個人それぞれだ。シンがそれを罪の象徴として捉えているのだって、別に誰かに強制されたわけじゃない。
 故に、歪む世界そのものには何の意図もない。契約で消せるというのならば、それを消すことは一切悪でも何でもないのだ。

 ただ、それを悪と捉えるのもまた逢魔シンという人間であるから、こうなってしまっただけで。

「きっと、顛末も聞いたよね。シスターからかい?」

「……マナから。あ、怒らないであげて」

「まさか。別に隠してるわけじゃないし、怒る気も、怒る権利も、僕にはないよ」

 やっぱり彼は優しい表情で、そう言って笑う。でも少し無理をしたような様なのは拭いきれてはいなくって、ヒナミはまた心のどこかがちくりと痛くなった。

「結局、僕がそうして甘えた結果が、あの子だ」

 世界が一転する。
 シンの姿が、かなり現在の姿と近しい様になった。背もかなり伸びて、体中の傷跡も随分と癒えたように見える。ただ、未だ真新しい傷跡もあることを考えれば、やはりこの時点で既に歪む世界による彼の肉体の損傷は起こっていたのだろう。

 風景は見慣れた聖堂。だが唯一異なるのは、中央に設置された大きな魔鉄器の存在だ。シスター――智代をはじめ、聖堂内には見覚えのないスーツ姿の大人たち
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