のびあがり
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情」
「予知能力というよりは、そうだな、異様に研ぎ澄まされた感受性、とでも云うのかねぇ。親父の能力は」
少し考えて、静流はふと顔を上げた。
「分かりました。あの場所は病院には向いてないんですね。…でも何であの病院の影は、大きくなるのかな」
「我慢の限界を超え始めたんだな、当然だ。思い当たることが山ほどある」
「……はい」
上擦った声で短く答え、静流は旨の前で指を組み合わせた。そして、云い放った。
「…やっぱり、あの人は助かりません」
その澄んだ声は最奥の神殿に住まう巫女のように、厳かに耳朶をうち、俺はどきりとした。
「なぜ、そう思う?」
厭らしい笑顔を引っ込め、奉は静流のうつむき加減な顔を覗き込んだ。
「あの…のびあがりを見る時、必ずあの、先生の顔がその…見えるんです」
「見える、だけか?」
「感じるんです。その…うまく説明できないなぁ…でも、今『感情』って云われて、ハッとしました」
誰かの煮えたぎるような怒りと嫌悪感。
それに外側から触れる感じ。
その怒りはこの間『決意』に変わっていた。
グダグダの言葉を無理やりまとめると、静流はそんなことを云っていた…気がする。
ならば、変態センセイは。
「――馬鹿め。土地そのものを敵に回したな。長くないねぇ、変態センセイ」
こともなげに『死』っぽいものを宣告して、奉は席を立った。もう帰るらしい。あいつは何をしに来たのだろう。
俺はというと。
「あの…元気、出して?」
「……やっぱりそう見える?」
なんだか分からないが、俺はショックを受けているようだ。何度か殺されかけた相手で、今現在も命を脅かされているというのに。俺は何故。
「もうなぁ、厭なんだよなぁ…」
何が厭なのか分からないが、このモヤモヤした気持ちを口に出さずにはいられなかった。
「続いたもんね、お友達の…」
云いかけて静流は口を噤んだ。そして少し眉をよせて、目を伏せた。
自分でも何を云いかけたのか分からなかったが、まぁ、多分そういうことなんだろう。
もう単純に、人が死ぬのが、厭なのだ。
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