のびあがり
[5/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
は戸惑いつつ、そう答えた。
「最初は、そんなに大きくなかった、と、そう云ってなかったか」
「病院は、最寄り駅から見えますよね。病院の裏側に、なんだか黒っぽい影があるなぁ…って、それくらいだったんです。で、でもそういうのが見えるのはいつものことで、騒ぐのもなぁ…って思って」
「騒がんでもいい、考えろ。お前は未来視だろうが」
「すみません…」
「他でも、似たようなものを見たことがあるんだな?何処で見た?」
「あの…そうですね…たしか……」
思い出すように斜め上に視線を彷徨わせた静流の視線が、ぴたりと止まった。
「……火事で全焼した、ビニール工場」
「……ほう」
「あと廃校跡と、不幸が続いたおうち。院内感染でニュースになった病院……その……」
悪いことが起こる前の、それか、起こった後の土地、です。そう云って静流は視線をすっと戻した。
「その場所に特別に近づかずとも、視認できる距離なら見える。そういうことだねぇ」
静流が頷くと、奉は少し顔を伏せて口の端を吊り上げた。煙色の眼鏡の奥は、うかがい知れない。
「ほら。眼鏡が見ている『のびあがり』は、なにも喉笛を噛み千切ろうとしてる訳じゃないねぇ」
「どうしてだ」
「危害を加えるつもりなら、もっと引きつけてから姿を見せるだろ?こいつらはまるで、眼鏡をその場所に近づけたくないみたいじゃないか。恐らく結貴、お前の親父も、後継者とやらも、眼鏡と同じものをみている」
「…てことは」
「予知、だねぇ」
眼鏡にも同じものが見えているなら間違いない。奉はそう呟いて、無料の茶を呷った。
「とはいえ、お前の親父は眼鏡のように自発的な未来視ができる訳じゃない。手がかりが要る」
「手がかり…?」
「地霊、とでも云うのかねぇ」
―――地霊?
「家が建とうが学校が建とうが、その地には古来から住まう者が居る」
「要は、霊が居ると」
「霊、とは云いたくないねぇ。その土地の個性、というか性格、というか。ほら、よくあるだろう。駅前でそんなに悪くない立地なのに、どんなテナントが入っても長続きしない貸店舗」
「あるねぇ!!」
「商売向きではない地霊が住まうからだ。これは古来からの約束で、駅近だとかオフィス街だとか、そんな後付けの事情は一切通用しないんだねぇ。地鎮祭やったって無駄」
今日一番納得した。
「入居者全員毒呑んで死ぬアパートとか数年おきにボヤが出る戸建てとかも同じことだ」
「そんな物件あんの!?」
「でだ。そういう『クセの強い地霊』が住まう土地に、地霊の癖に合わない建物が建てば、地霊は排除しようともがく。眼鏡、お前が見ている『のびあがり』は、地霊の感情、に似た何かだ。その『影』とやらを見てお前に生じた感情が、地霊の感情のようなものにとてつもなく近い何かだ」
「……感
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ