のびあがり
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お茶会の帰りに…」
―――ふいに思い出した。
変態センセイに呼び出されて地下の標本室で茶を呑まされた日の帰り。
静流は確かに云っていた。
――あの先生は、もう助かりません。
「そか、背後の山から大きい影って云えば良かったんだ。私、どう表現していいのか全然分からなくて。…最初はね、もっと小さい影だったの。そんなのはいつだって視えているけど、あれは見る度に大きくなってるみたいで」
見てる間も、見れば見る程大きく見えてきて、途中で怖くなって見るのをやめた、らしい。
「それから随分経つから…今はもう、考えられないほど大きくなってるんじゃないかな…」
「それは、ないねぇ」
…舌打ちが出そうになった。必修の授業はないから、今日は敢えて声を掛けなかったのに。
「――珍しいな、奉。自分から学校に来るなんて」
「縁が鋏を持って、洞の周りをウロウロしてんだよ」
――成程。縁ちゃんは、数日前から伸び放題の奉の髪を切りたくてウズウズしている。切られるのが嫌ならさっさと床屋に行けと云っても、中々重い腰を上げない。
で、妹さん強硬手段というわけだ。
「お前もう…帰りに床屋に寄るからな」
「是非もなし…」
「偉い人みたいに云うな。…で、どういうことだ。奉にも見えてるのか。見えてないのは俺だけか」
くくく…と、奉が低く笑った。
「見えねぇよ、俺にだって」
「奉に、見えない?」
「あれはねぇ」
ビビリにしか、見えないんだよねぇ。そう云って奉がまた笑った。
「見越し入道、という妖がいるだろう」
「名前しか知らねぇよ」
「狐狸の類だねぇ。要は妖なんて云ったが、そんな高尚なもんでもない。…妖が出す、幻よ」
旅人が山道で、入道に行き合う。見ているうちに入道は、ずんずん大きくなっていく。そのうち自らの背を遥かに越し、山のように大きくなる。見上げ過ぎたものは…
「喉笛を噛みちぎられて、死ぬ。…見上げさせるのは、喉を差し出させるためよ」
「何の為にそんな…いや、意味を求めても仕方ないのか」
「分かってきたじゃねぇか。…まぁ、『見越し入道』的なものは数多、存在している。その全てが喉笛掻っ切る為に見上げさせてる訳じゃねぇだろうがな」
「じゃあ、病院の見越し入道は一体…」
と云いかけた静流を軽く制して、奉は指先を軽く組んだ。
「意味は似たようなもんだが、仮に病院の見越し入道的なものを『のびあがり』と呼ぼうかねぇ。おい眼鏡。お前にはのびあがりが見えているんだろう?」
―――眼鏡て。
「…はい、一応…」
「どの辺から、見えていた?」
「え?」
「病院の裏に、見えたのだろう?どのくらい病院に近付いたら、見えてきたんだ」
「それは…」
最寄駅に降りた時には、もう見えてました…。静流
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