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霊群の杜
のびあがり
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結貴さんは」
急にブレーキを踏み、軽トラが路肩に寄せられた。相変わらず前を見つめたままの榊さんは、実に慎重にハンドルを切り、完全に平行に駐車出来た事を確認すると、すっと俺に視線を向けた。
「あの病院でよく見かけますが、まさか、用もないのに入り浸っていますか?」
少し咎めるような口調。彼への苦手意識が少しぶり返してきた。
「あっ…と、なんか…知人、というか。あそこの医師に、妙に気にいられてしまって…」
「友達が増えるのは結構ですが」
「断じて友達じゃない」
「知人が増えるのは結構ですが、会うならあの場所はよしたほうがいいです」
榊さんは、断言する。いつもそうだ。含みのある云い方を一切しない。それでいて言葉が足りない。
「俺もそうしたいところです。ぜひ根拠を教えてもらいたい。説得に使わせてもらいます」
「云えるわけないでしょう」
病院には行くな、根拠は云えない。そうきっぱり云う。何なのだこの人は。奉のようにはぐらかされるのもイヤだが、やたらきっぱりと隠されるのも腑に落ちない。
「それじゃ、やっぱり行くしかないです。また呼ばれてるし」
少しだけイラついたので、嘘をついた。今はまだ呼ばれていない。というかお茶会のお誘いは頻繁だが全部断っている。
「じゃあ、云いますが」



あの病院の背後の山から、とてつもなく大きい影が伸びあがってるの、見た事ありますか?



「……は?」
そう云うしかなかった。
俺はてっきり、榊さんも地下の標本や人面樹に気が付いていたのかと思っていたのだ。
「そうなりますよね。…あれは俺や社長にしか見えないんです」
そう云って榊さんは小さくため息をつき、ドアを開けた。
「着きましたよ」
「……へ?」
「現場。軍手、してくださいね」
「は、はぁ」
そうだったそうだった。この後仕事だったんだ。俺も助手席のドアを開け、トラックの裏側に回り込んだ。芝をトラックから降ろし始めた辺りから、車内の話はお互いに忘れてしまった。



「…て、云われたんだ」
あれから数日後。いつも通り学食で落ち合った静流に、榊さんの話をした。家業のことを話すのは、初めてかもしれない。俺が家を継がずに普通の勤め人になるつもりと聞いたら、静流はどう思うだろうか?と一瞬ひやりとしたが、静流はただ熱心に聞いてくれているだけで、俺の家業問題には大して興味がないようだった。ただ、彼女が想定外に興味を持ったのは。
「その、病院の背後に見えるもの…って」
私にも、見えてるよ。彼女はそう云って俺と目を合わせた。
「……んなにぃ?」
予想外の反応に、変な声が出てしまった。
「なんで、今まで云ってくれなかったの…?」
「わ、私もなんて云っていいのか分からなくて!…でも」
「でも?」
「…云おうとはしたの、この間の
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