のびあがり
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さん」
「荷台に芝も積んで行きたいです。整骨院から現場が近いので」
「……帰りに寄りましょう。俺も手伝います」
榊さんは、こういう人なのだ。基本的に、予定通り仕事をこなす事しか考えていない。俺が手伝うと云いだすことも、勘定に入っていたのだろう。既に芝を積み始めている榊さんの脇をすり抜けるようにして、親父が荷台に潜り込んだ。
「今日の現場は、広さはそこそこです。二人いればすぐですよ。軍手は芝の上に積んであるんで」
親父を整骨院に預けた帰り道。色あせたハンドルを軽快にきりながら、榊さんがハキハキと話しかけてきた。機嫌が良さそうだ。親父よりは体力があり、文句を言わずに働く俺を作業に駆り出せることが、普段あまり感情を表に出さない彼を上機嫌にさせているようだ。
俺達は『家を継がない息子と代わりに継ぐ他人』という、一見複雑な関係にあるのだが、実態は実にシンプル。榊さんは仕事人間、俺は労働力。…案外、俺と奉の関係と、大して変わらないのかもしれない。俺は何処に在っても、労働力を搾取される側なのだ。
「すみませんね、親父の我儘で。…たまにああいう事を云いだすんです」
「ああいう事?」
「ここらで一番大きい病院がイヤとか。一番確実だっていうのに」
ふぅん…と榊さんは小さく呟き、暫くぼんやりと前方を見つめ続けていた。
「全く、子供じゃないっつうのに。何が不満なんだか」
「俺も、あの病院イヤですよ」
更に親父の我儘で話を膨らまそうとしていた俺は、口を噤んだ。榊さんは相変わらずぼんやりと前方を見ながらハンドルを切る。赤信号でゆっくりとブレーキを踏み、彼は再び口を開いた。
「数年前から、急にイヤな感じになったんですよね。病院そのもの、というよりは」
なんか、周りがイヤな感じになった、とでも云えばいいのか。そう口ごもって、榊さんは眉を顰めた。
「でも、あの病院の造園とか鉢の管理とか、うちでやってるんじゃ…」
「仕事ですからね」
実にドライに云い切る。
「仕事でよく行くからこそ、あそこのヤバさが身に沁みるんです。逆に」
「へぇ…」
素直に感心した。
親父に云われた通りだ。親父もこの人も、『ヤバいものを回避する能力』に長けている。この人達であれば恐らく、俺のように地下の標本置き場に閉じ込められたり、人面樹騒動に巻き込まれたりすることはないのだろう。
だからこそ『仕事』が成り立つ、とも云える。
俺では、巻き込まれまくって5年もしないうちに命を落としかねないな。そう思うと何というか、気が楽になった。俺が責任を放棄したわけじゃない。そもそも継いではいけないのだ。そう思うと隣でハンドルを握っている榊さんに対する苦手意識が、少しだけ和らいだ気がした。
「どんなとこが、ヤバいと思ったんですか?」
軽い気持ちで聞いてみた。
「……
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