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戦国異伝供書
第百三十話 時が来たりてその九

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「どうもそれがです」
「わからないか」
「はい、陽気で気さくですが」
「しかしああしたことをしたな」
「それがです」
 どうもとだ、命は煉獄に話した。
「矛盾していますし」
「わからないな」
「私も」
「わしもだ、あの様な方がああしたことをしたのかな」
「これまで話していたことを」
「それがわからぬ、しかもな」
 それに加えてとだ、煉獄は言った。
「羽柴殿や前田慶次殿はな」
「普通にお付き合いされていますね」
「お二方以外は皆嫌われているが」
「柴田殿は切り捨てるべきとお考えですね」
「今もな、しかしわし等から見てな」
「あの方がそうしたことをされるとは」
 これまで話した様なことをというのだ。
「思えません」
「そうだな」
「しかし何処か陰もありますね」
「ううむ、それはな」
 煉獄も言った。
「言われるとな」
「不思議な方です」
「というか元々の生まれもわかってないよね」
 大蛇は松永のそのことを指摘した。
「そもそも」
「そうなんだよな」
 煉獄も応えた。
「一応お歳は言われてるけれどな」
「それも自分で言ってるだけで」
「生まれたところもな」
「やっぱり自分で言われてるけれど」
「はっきりしないな」
「そうだよね」
「実は何者か」
 その詳しい出自はというのだ。
「わかっていない」
「これがね」
「実際どういった人なのかね」 
 このことは風も当然わからない、それで首を傾げさせてそのうえで語るのだった。
「わからなくてね」
「余計に怪しく言われているな」
「そうだよね」
「あの人今は織田家の重臣だけれどね」
「間違いなくそのお一人だな」
「殿には随分忠実だし」
 ただし羽柴と慶次以外の織田家の家臣達は全く信用していない。信長の弟の信行も筆頭家老の平手もそれは同じだ。
「そして普段の気さくさから見てね」
「悪い人に見えないけれどな」
「どうしてもね」
「そうだがな」 
 それでもとだ、煉獄は語った。
「陰があって出自がわからねえ」
「そして何処か思わせぶりなこと言うね」
「ああ、本当にどんな人だろうな」
「何か全くわからないよね」
 獣は子供っぽい仕草で述べた。
「お父の言ったことが」
「ああ、何が何かな」
「どうもね」
「闇って何だい、鬼か」
 煉獄は不意に異形の者の名を出した。
「それか土蜘蛛か」
「あやかしですか」
「それか?けれどな」
「もう鬼も土蜘蛛もいません」
 鏡は煉獄に答えた。
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