第一章
[2]次話
姉一人弟一人
平野謙は正直もう野球を続けていけるとは思えなかった、両親に先立たれてしまい家には姉がいるだけになった。
それで家は金物屋をしていた、それで彼は姉に言った。
「姉ちゃん、もう俺は」
「野球はしないっていうの?」
「だってだよ」
平野は姉に暗い顔で答えた。
「もう父ちゃんも母ちゃんもいないし」
「中学には野球部もなくて」
「もうそんなのでだよ」
とてもというのだ。
「どうやって野球が出来るんだよ、お店だって」
「お店は姉ちゃんがいるわよ」
姉の洋子は弟に確かな声で答えた。
「だからね」
「大丈夫なんだ」
「そう、大丈夫だから」
店のことはというのだ。
「絶対にね」
「そう言うんだ」
「高校は一年休んで」
そうしてというのだ。
「それで何とかやっていくから」
「それでなんだ」
「お店とお家のことは姉ちゃんに任せて」
「そっちはいいんだ」
「そう、気にしなくていいから」
弟に微笑んで告げた。
「あんたは何も心配しなくていいのよ」
「けれど中学に野球部は」
「だったら運動部は何でもしたらいいのよ」
「何でも?」
「そう、掛け持ちでもして」
幾つもの部活をそうしてというのだ。
「いつも身体を動かして高校に入って」
「その時に野球をやればいいんだ」
「そうすればいいのよ」
こう弟に答えた。
「今はそうして身体を鍛えるのよ」
「他のスポーツをして」
「何でもね、どう?」
「姉ちゃんがそう言うなら」
もう唯一の肉親になっている彼女がというのだ。
「俺やってみるよ」
「そう、無理だと思っていて諦めたら」
そうすればとだ、姉は弟を励ました。
「それでなのよ」
「終わりなんだ」
「だからね」
「お店のことも野球のことも」
「諦めないことよ」
姉は弟に強い声で言った。
「これから何があってもね」
「それでもなんだ」
「そう、野球は高校でやって」
「今は他のスポーツで鍛えるんだ」
「そうしなさい、お店は姉ちゃんがやるから」
こう言って実際にだった、姉の洋子は学校を一年休学してまで家の金物店を切り盛りした、平野もそんな姉を手伝い姉と弟だけで生きていった。
やがて店を畳み土地と家を売って二人は転居したが。
平野は地元の犬山高校に進学した、この高校には野球部があったので彼は迷わず入団して姉に言った。
「姉ちゃん、これからはね」
「ええ、野球をするわね」
「出来る様になったよ」
姉に家で笑顔で話した。
「だから俺頑張るよ」
「そうしなさい、野球が出来るならね」
「全力でやることだね」
「よかったわね、本当に高校で野球が出来て」
姉は弟に笑顔で言った、彼女もまた笑顔だった。
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