第四章
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「下手に甲板の縁に行かないでな」
「落ちない様にしないと駄目なのね」
「そうだ、そこはしっかりしろよ」
「わかったわ」
りみは叔父の忠告に真剣な顔で頷いた、それは愛美も同じで。
彼の言葉に従って救命胴衣を着けて甲板の縁には近寄らなかった、そうして壇ノ浦まで行くとだった。
そこには淡い優しい緑の光が無数にあった、その光達がだ。
互いに争う様にしていた、りみはそれを見て言った。
「蛍ね」
「そうね、間違いないわ」
愛美はそのりみに答えた。
「蛍はね」
「人の魂ね」
「和歌にあった通りね」
「和泉式部のね」
「ああ、そんな話あったんだな」
柳崎は二人の話を聞いて言った。
「世の中には」
「そうなの、叔父さん和歌知らないの」
「俺は勉強嫌いなんだよ」
これが叔父の返事だった。
「だから和歌なんてな」
「知らないのね」
「高校は出たけれどな」
それでもというのだ。
「そこから漁師一筋でだよ」
「もう忘れたのね」
「ああ、勉強しなくてもちゃんと手に職あればな」
それでというのだ。
「人は食っていけるんだよ」
「そうなのね」
「ああ、それで和歌なんてな」
叔父は姪にあらためて言った。
「知らないんだよ」
「そうなのね」
「けれど蛍が人の魂っていうのはな」
このことはとだ、その海の上をまるで合戦の様に二つに分かれて争うかの如く富んでいる蛍達を見て言った。
「言いえて妙だな」
「そうよね」
「ああ、実際にな」
「この蛍達が」
今度は愛美が言った、その蛍達を見たまま。
「壇ノ浦で死んだ」
「源平の人達ね」
「そうよね」
「特に平家の人達がいるのね」
この壇ノ浦で敗れて滅んだ彼等のというのだ。
「そうなのね」
「そうなるわね」
「じゃあ平家の人達もいるわね」
「若しかして安徳天皇も」
「そう思うと何かね」
「感慨あるわね」
「そうね、その人達の魂なら」
りみは愛美に考える顔で言った。
「ご冥福祈る?」
「この世界にいるけれど」
「それでもね」
「そうね、亡くなった人の魂なら」
それならとだ、愛美も頷いてだった。りみに答えた。
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