第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
第一節 救出 第五話(通算85話)
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の二つの信号に呼応して、《アレキサンドリア》から応援が来る手筈になっていた。それを逆手に取った《アーガマ》艦載機による擬態の追撃も始まる。仲間を騙さねばならぬ苦さが、エマの口の中に広がった。
「行くわよ……カミーユ・ビダン」
聞こえる筈のない相手にそう言い切る。
作戦で予定された通り、無軌道に機体を動かす。だが、カミーユの位置は後方四時十キロメートルから変わらなかった。つまり、ほぼ同じ軌道を同じ加速で動いているということになる。予定された行動とはいえ、プログラムではない手動の操縦で、だ。おいそれと出来ることではなかった。だが、今はカミーユの技術が高いことは作戦の成功確率を上げてくれるのだから歓迎すべきことだ。
「追撃隊は?……来た」
後方三○キロメートルほど離れた《アーガマ》から続々と発進するMSを光学カメラが捉える。打ち合わせ通りだ。機数は三、《リック・ディアス》のみの一個小隊である。
「応援部隊は、まだね」
待機しているターナト小隊がスクランブル発進するまで一分と掛からない。それに加え《アーガマ》は航宙母艦らしく船足は遅い。重巡航艦とはいえ《アレキサンドリア》の最大戦速なら追い付ける。カタパルトから射出されたMSならば、このぐらいの相対距離なら、到着まで二分以内の距離である。
機体の周囲に集束したビーム光が放たれた。有効射程外のアポリー隊から放たれたビームライフルの弾条である。牽制弾だ。そもそも命中させることが困難なMS戦での擬態であるから派手に撃ち放していた。
「いい腕ね」
アポリーを称賛しつつ、エマはクワトロ・バジーナの動きがみたいと思った。コロニー内という難しい環境でたやすく――いや、瞬く間にというべきか、迎撃に出たコロニー防衛隊のMSを撃墜し、《ガンダム》を奪取した手際の良さは、戦慄を覚える。敵にすれば自分が敵わない相手だ、ならば、少しでも見ておきたかった。無論、生き残るために、である。
中らないように配慮された攻撃では、バレる可能性もあるため、アポリー以外のパイロットに作戦は秘匿されている。カミーユにも不本意ながらひと芝居打たせた。
相対距離を睨みながら操縦桿を握る。
作戦をより確かなものにするには、被弾の一つでもした方がいいかもしれないなどと考えながら、《アレキサンドリア》を目指して機体を急がせた。
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