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戦国異伝供書
第百三十話 時が来たりてその一

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                第百三十話  時が来たりて
 子供達が皆元服しそれぞれ見事な忍術実に独特なそれを身に着けた時にだった。居士は天下の動きを見て彼等に飛騨の山奥の自分達の棲み処で言った。
「わしが言った通りじゃな」
「ああ、織田三郎様がだな」
「見事今川家に勝たれてな」
 こう煉獄に話した。
「そしてじゃ」
「伊勢も志摩も手に入れられてな」
「美濃もじゃな」
「正直驚いたぜ」
 煉獄は居士にこう返した。
「お父から確かにあの方こそ天下人になられる方と聞いたがな」
「瞬く間にじゃな」
「もう二百二十万石のだよな」
「大大名じゃ」
「この飛騨まで手に入れたな」
「三木様が降られてな」
 織田家にというのだ。
「そしてじゃ」
「そうなったな」
「そしてな」
「ああ、これかだな」
「お主達を織田様の下に連れて行く」
 信長のというのだ。
「そうする」
「その時が来たんだな」
「うむ」
 その通りだというのだ。
「そうする」
「いよいよか」
「そうじゃ、覚悟はよいか」
 居士は子供達に問うた。
「それで」
「織田様にお会いすることについてか」
「その覚悟はな」
「覚悟?とんでもないぜ」
 煉獄は父に笑って返した。
「わし等はむしろな」
「楽しみか」
「ああ、わし等の主君がどんな方かな」
「稀代の傑物なら」
 あや取りも言ってきた。
「わし等も楽しみ」
「そう思っているか」
「そう、ただ」
 ここであや取りは居士に問うた。
「お父はこれからどうする」
「わしはか」
「そう、わし等が織田様に仕えたら」
 それからはというのだ。
「お父は」
「お父も一緒だよね」 
 風は居士に笑って問うた。
「あたし達と一緒にね」
「織田様にお仕えするというのじゃな」
「そうするんだよね」
「ははは、お主達はそうなるが」 
 居士は風の問いに笑って返した。
「わしはじゃ」
「違うのかい?」
「わしは誰かに仕えたことはない」
 それこそ一度もというのだ。
「この歳までな、そして元々な」
「元々?」
「誰かに仕える者でもない」
 こう言うのだった。
「それは性に合わぬ」
「じゃあ私達とお別れしてなの」
「また気ままな一人暮らしに戻る」
 萌に対して答えた。
「そうする」
「そうするの」
「そうじゃ、ここでな」
「私達と別れてなの」
「お主達のことはいつもここで見ておる」 
 穏やかな笑顔でこう言った。
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