第一章
[2]次話
ある雌ライオンの子供
「ライオンはプライドを持っているんだ」
「誇りですか?」
「いや、誇りもあるけれどな」
ノル=クラインはケニア北部サンブル自然保護区に来たベルギーの中学生ホセ=ヴァン=ハルサに話した。二人共金髪で青い目だがクラインはかなり大柄で逞しい中年男である。二人共サファリスーツを着ている。
「それでもな」
「別の意味ですか」
「群れのことだ」
そのプライドはというのだ。
「それはな」
「そういえばライオンも群れを作りますね」
「ああ、雌と雄でな」
それぞれというのだ。
「ライオンは社会的な生きものだからな」
「それで、ですね」
「雌のプライドもあれば雄のプライドもある」
その両方がというのだ。
「雄だと兄弟で一頭か二頭でな」
「それで雌はですか」
「母親とか姉妹とか従姉妹で十頭だな」
「そうなるんですね」
「それで雄を中心にしてな」
「雌が何頭かいて子供もいる」
「そういう群れもあるんだ」
そうしたプライドもというのだ。
「そうなんだ」
「そうですか」
「ああ、しかしな」
ここでだ、クラインはハルサに遠くにいる雌ライオンを指差して話した。
「そこにいる娘は違うんだ」
「雌が一匹でいますね」
ハルサもその雌ライオンを見て言った。
「何か」
「あの娘はカムニャックというけれどな」
「あの娘は一頭で暮らしてるんですね」
「そうだ、それでな」
クラインはさらに話した。
「あの娘はかなり変わってるんだ」
「一頭で暮らしていて」
「違う、ずっと一頭でいることも変わっているが」
社会的で群れを作るライオンとしてはだ。
「子供がいるがな」
「子供?いませんよ」
ハルサは子供のライオンがいないのを見て応えた。
「子供は」
「近くにオリックスがいるだろ」
「ああ、これから食べるんですね」
「あのオリックスが子供だ」
「えっ、そうなんですか」
「カムニャックはいつもオリックスの子供を保護してな」
そうしてというのだ。
「一緒にいるんだ」
「そうなんですか」
「これまで何匹もそうしているんだ」
こうハルサに話した。
「あのオリックスだけじゃない」
「そうですか」
「時々でもな」
「それは不思議ですね」
「そうだな、しかしな」
クラインはここでハルサに難しい顔で話した。
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