第三章
[8]前話
「うちに来た時と比べて嘘みたいだね」
「ああ、前の家にいた時なんかな」
夫はこの時から話した。
「もうな」
「あの時よりもなのね」
「ずっと暗くてな」
「塞ぎ込んでいたのね」
「そうだったんだ」
こう話した。
「あの時は」
「そうだったのよね」
「何しろ五年の間な」
「ずっと飼育放棄されていたのよね」
「そうだったからな」
「酷いご飯とお水でお散歩も行かなくて」
「名前すら呼んでもらえないでな」
それでというのだ。
「叩かれて遊ぶこともな」
「なくて」
「そんなのだったからな」
「すっかり暗くなったのね」
「五年の間ずっとな」
まさにというのだ。
「そうだったんだよ」
「そうなのね」
「ああ、中々引き渡してくれなかったんだ」
その五年の間というのだ。
「ずっとな」
「飼育放棄してるならね」
「引き渡せって思うな」
「ええ、けれどなの」
「いじめていて喜んでいたらしくて」
「最低ね」
妻もこう言った。
「それは」
「本当にそうだよな」
「ええ、そんな人には天罰があるわよ」
「その飼い主この前死んだよ」
「そうなの」
「元々酷いアル中でな」
それでというのだ。
「肝硬変になってな」
「そうなのね」
「随分苦しんで死んだらしいな」
「因果応報ね」
「そうだよな」
「全くよ、けれど五年間そうだったなら」
飼育放棄されていたからというのだ。
「うちではね」
「ずっと幸せに暮らしてもらわないとな」
「そうよね、じゃあマーリーこれからお散歩行ってね」
妻はその彼女に声をかけた。
「そしてねその後でご飯よ、カイヤも一緒よ」
「ワンッ」
マーリーは彼女の言葉に嬉しそうに鳴いた、そして尻尾をぱたぱたと振って彼女のところに来た。毛並みはすっかりよくなっていてかつての暗さは何処にもなかった。夫婦でその彼女を見て笑顔になった。
五年間の苦しみから 完
2021・3・19
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