第102話『予選G』
[3/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
。
「ギ、ガ、ガ」
「こ、来ないで……!」
腕を足代わりに、上半身がのっそのっそと向かってくる。黒い見た目も相まって、さながらホラー映画のゾンビだ。
一歩、また一歩とゲノムが近づいてくる。目を光らせ、牙を鳴らし、涎を垂れ流しているその姿は、誰が見ても不気味で恐ろしく感じることだろう。現に緋翼は、金縛りにあったかのように身体が動かなかった。
「ギ、シャアァァァ!!!」
「いやぁぁぁ!!!」
ゲノムが器用に二本腕で飛んだ瞬間、ようやく緋翼の防衛本能が働き、思い切り刀が振られる。それはちょうどゲノムの首を捉え、そして斬り落とした。
「はぁ……はぁ……!」
涙目になりながら肩で息をする緋翼。これぞ火事場の馬鹿力というものか。本当に死ぬかと思った。
「さすがに……もう動かないわよね」
これで首だけが動き出そうもんなら卒倒していただろうが、動かないようなのでひとまず安堵する。確認のために腕輪を見ると、10Ptが追加されていた。
「まぁ、そうだろうね……」
疑っていた訳ではないが、やはりゲノムが10Pt級だったようだ。他にもまだいるかもしれないと考えると、背筋が凍りつく思いだ。
それにしてもと、緋翼には疑問が一つ残る。
「アーサーさんは、どうして"わざと"ゲノムを生かしたのかしら」
そう、先程アーサーは去り際に、間違いなく腕輪を確認していた。その時にポイントの増減を見ればゲノムを倒したかどうかは一目瞭然のはずなのに、彼はゲノムにトドメを刺さないままその場を去ったのだ。
一体何のために。たまたまポイントを読み間違えるという天然っぷりが発揮された可能性もあるが、恐らくそうではない。
彼は"意図的に"ゲノムを倒さないでおいたのだ。高ポイントを横取りできるチャンスであるにも拘わらず、緋翼を助け、あまつさえわざわざ瀕死の状態に追い込むというサービス精神まで見せてくれた。
「本当に、"私の代わりに戦った"だけなのね……」
アーサーの発言を思い出して、緋翼はそう結論づける。どう視点を変えても、この行動に彼へのメリットはない。よって付け足すとすれば、彼は余程のお人好しということになる。最年少チームだからポイントを与え、本戦出場を後押ししたつもりなのだろうか。
「何それ、ふざけんじゃないわよ……」
しかし、その行動が余りに自分勝手だということを彼は自覚しているのだろうか。もはや諦めていたのだから、今さらこんなポイントを貰ったって嬉しくはない。むしろ、恐怖や屈辱を味わわされたという点で、彼への苛立ちが募っていた。
「私たちを残したことを、絶対に後悔させてやるわ」
これが、緋翼の闘志に
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ